第34話
「これから死ぬぞって奴は自然とも喋れた気になるのかって笑いそうになった」
いや笑いそうも何もあんたもう口元笑ってるよ。
そう言い返してやろうかとも思ったけれどそれを言えばこの人はもう我慢せずに思いっきり笑い始めそうで、私は何も言わずにまた正面へと向き直った。
それから何を思ったのか、その人はタンッ!と勢いよく私のいる段差に乗り上げて左に並ぶと私と同じように遠くの景色を眺めていた。
「……」
「……」
もう何も言う気にはなれなかった。
何で今隣に来たのかとか、
この人がどうしてここの鍵を持っていたのかとか、
もうどうでもいいや。
あの言い方だとこの人以外にはいないっぽいし。
それに私がまたここへ来るかどうかなんて私自身にもよく分からない。
依然足の裏は冷たくて固くて、“何をしてる、さっさと行けよ”と誰かに言われているような気分だった。
だから私は死ぬ気なんかないんだっつうの…
「一応聞くけどさ、」
突然隣に並ぶその人に声をかけられて正面からそちらに顔を向ければ、いつからこちらを見ていたのかその人は顔だけをこちらに向けていた。
やっぱり…こうして並ぶと、この人は私よりも断然背が高い。
「お前飛ぶんだよな?」
やっぱり私はもう“お前”なのか。
この人はちょっと…いや、かなりよく分からない。
「は?」
「だから飛ぶ気なんだよな?靴まで脱いでここに立つってことは」
確かにさっきは今なら空も飛べそうだとかちょっとメルヘンなことまで考えちゃったけどさ、もちろん私は本気でそんなことができるなんて思ってはいない。
「“飛ぶ”?…落ちるじゃなくて?」
「いや、どう考えても“飛ぶ”だろ?」
なんか…
初対面で本っっ当に失礼だとは思うんだけど、
ちょっとこの人バカすぎて会話するのもだるくなってきた…
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