第33話

「俺の唯一の癒しスポット崩壊したわ…」


「……」


「てか俺かなり前からたまにここ来てたんだけどさ、一回も会ったことなくね?どんくらいのペースで来てた?それとも今日が初めて?やっと死ぬ覚悟ができたから来たって感じ?それなら土壇場で邪魔して俺悪いことしたよなぁ」


その人はペラペラと喋りながらまた私を見上げた。


「……」


「…あ、でもじゃああんたが死ぬなら別にこれまでと何も変わんねぇのか…」


「……」



私が何も言わないせいで、その人は何を言っても独り言になってしまっていた。


いつの間にかその人はまた私の方は見ていなくて、さっきと同じように遠くを見つめたまま何かを考え込んでいるようだった。



「……」



「……」







それからどれくらい経っただろう。



三十秒?一分?



他人とのそのほんの少しの時間は、体感としてはとてつもなく長く感じた。





えー…っと…


これは…



立ち去っ———…




「お前さ、この景色見て何を思うよ?」




コロコロと話を変えるその人に、私は思わず「は?」と言葉を返した。



「お、喋った」


「なに急に」



私が今何よりも気になったのはその失礼な反応や私を指す言葉が“あんた”ではなく“お前”になったことではない。


ついさっき投げられた質問の意味だった。



「なにって?」


「この景色見て何思うってなに?」


「いや、まんまだけど。人生最後になるこの景色を見て今どう思うのかと思って聞いただけだよ」


「……」




その人のその言葉に、後ろを向いていた私はまたゆっくりと正面へ向き直った。















「………何も」





この景色もこの高さも、体感したところで何もなかった。



お父さんの声だって聞こえやしなかった。








「“そう睨むなよ、太陽…”」



私がさっき一人で言ったそれをわざとらしく口にしたその人にまた顔を向けると、その人は太陽を見上げて眩しそうに左手をかざしていた。


その口元は緩んでいて、太陽をしばらく見上げていたかと思うとそのまま目だけをこちらに向けた。


その目はかなりふざけていた。




「…馬鹿にしてんの?」


「ははっ。うん、ちょっとだけ」





うっざ…

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