第31話
私が振り返った先の、私がさっき通ったドアの横には見たこともない男がいた。
誰もいるはずのないこの場所に、何で———…
「あー………おっと悪い、邪魔した。俺のことは気にせずどうぞ続けて」
その男は制服を着ているからこの学校の生徒で間違いない。
それから右手の指先で鼻先をすりすりと擦っていたから今さっき聞こえたのはきっとくしゃみだ。
「……」
「……ん?どうぞ、どうぞ。続けて?」
その男は振り返ったまま固まる私を促すように、両手を“ほらほら”と言わんばかりに差し出した。
…いや、どうぞっていうか…
続けるも何も私はここに立ちたかっただけで…
それで言うならもう目的は果たせたんだけど。
…え、てか何でここに私以外の人がいるの…?
私が屋上へ出た後に出てきたとか?
いやでも鍵を開ける前に周りは散々確認したし、ここに来るまでだって誰にも見られなかったはずなのに…
「…ん?どした?続けていいぞ?」
「……」
何はともあれ、この人はきっと大きな勘違いをしている。
私が意味もなくそれっぽさを出すために靴なんて脱いだからかもしれない。
「おーい、どしたー?俺のことは気にすんなー?」
…にしても、
「早くしろってー」
…軽くないか?
まぁどっちでもいいんだけど。
思わず目線を落とした私の耳に「よいしょっ」と小さな声が聞こえてまたそちらに目をやれば、その男は立ち上がってお尻を軽く払っていた。
二年か…三年か…
その制服の着崩し方は確実に一年生ではなかった。
てかやっぱり分からない…
この人は何でここにいるの?
いたの?来たの?
どちらにせよ、鍵を持っているのは私しかいないはずなのにおかしくない?
だって私が来るより先にいるのは普通におかしいし、私が来た後に屋上へ出たんだとすればまずそもそも鍵の閉まっているここへ来るということ自体がおかしくなる。
この人、なんで———…
「はぁ…なんか躊躇わせちまったみたいだからついでで聞かせてもらうけどさ、」
男はそう言いながらゆっくりとこちらに歩いてきたかと思えば、
「何であんたここの鍵持ってんの?」
私が今気になって仕方がなかった質問を私より先に口にしてしまった。
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