第30話

私が靴下のまま目の前の段差に乗り上げれば、それを狙っていたかのようにふわっと風が吹いて私のスカートが揺れた。






うわっ…




その高さは思った以上だった。




たしかにこれは確実に人が死ぬ高さだ。


お母さんが落ちたところもこの別棟も、真下はコンクリートだもん。


土でも死にそうだわ…




「はぁ…」



ここはあの二人が死んだビルでもないのに真下を見下ろせばそこに二人が待ち構えているような気がして、私はすぐに真下から正面へと顔を上げた。





広い…



今の私を取り巻く周りの空間には何もない。





今なら空も飛べそうだとバカなことまで思ってしまいそう。






それからすぐに空を見上げれば、まだまだ日差しの強い太陽がギラギラと私を照らしつけていた。





「そう睨むなよ、太陽…」





お前はどっちの味方なの?



“お天道様は見ている”なんて言葉があるけれど、あれが本当だとするならばお前はきっと私の味方なはずだよね?





だって私は無責任に死を選んだりはしないから。



見張ってて欲しい。



私が絶対に死なないように。




誰も私に興味がないなら、



お天道様でも神様でも、もう何でもいいから———…


















「———…っくしっ!!」



突然割って入るように聞こえたその声に、太陽を見上げていた私は慌てて振り返った。

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