第29話

どうせならそれっぽくしたいよね。



“それっぽく”?



…ははっ、その気なんて微塵もないくせに何言ってんだろ。





私の口元を緩ませた少しバカにするようなその笑いはきっとお父さんとお母さんに対しての軽蔑からくるものだったと思う。




私はその場で靴を脱いでみた。



うわー、ぽいぽい!



靴脱ぐだけで十分それっぽい…!






死にもしないのに、死ぬ人ってなぜかちゃんと靴を揃えるよなぁなんてどこで得たのかも分からないような知識を思い出しながら私はその場に綺麗に靴を並べた。




靴下で立つ屋上の床は硬くてまだ残暑が残る九月なのに何故か冷たくて、それがなぜか自殺する人間を後押ししているみたいだと思った。


それから目の前の段差に近付いてみれば、靴を脱いだせいで私からは足音もしなくなった。



地面はこんなに硬くて冷たい上に自分から発する音が何もないなんて…



そんなことでもうこの世界中の誰も自分になんて興味はないんじゃないかとか思えたりもして、自殺する人が靴を脱ぐ理由が何だか分かった気がした。




もちろん私は今から死ぬわけじゃないからそうだと言い切ることはできないけれど、なんていうか…





…靴を脱げば、躊躇いがなくなる。





この足の裏に当たる冷たくて硬い地面だとか足音すらもしなくなった自分の存在だとか、




もう死んでいいんだ、それでいいんだ、と思えてしまう。



死ぬ気もない私がそう思うんだから、お母さんはきっと満を持して飛び降りたんだよね?



一体どんな気持ちで飛び降りたんだろう。





…ま、そんなことまでは知りたくないけど。

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