第11話
電車で揺られること約十分、
学校の最寄駅に着いた私は少し小走りで改札を抜けて学校を目指した。
分からなくなった時はもうアレしかない。
朝一でその誘いのメールをくれた川口には感謝しなきゃ。
正門を抜けてみんなが校舎へ向かう中、一人だけその群れを外れて体育館に行けばそこには誰もいなくてシンと静まりかえっていた。
静かだな…まぁ誰か一人でもいたら困るけど。
その奥の体育倉庫の扉が少し開いているのが見えて、私は脱いだ靴を片手にこれまた小走りでそこへ向かった。
———…ギッ…
体育倉庫の重い戸を中に入れる程度まで開ければ、奥のマットが積み上がったところに座って俯いている川口が見えた。
川口は、戸を押し開けるその音に目だけをこちらに向けた。
「おはよう」
「お前遅えよ。せっかく今日どこも朝練やってねぇのにもう時間ねぇじゃん」
川口は中学から仲の良い友達で、進学した高校が同じだった上にクラスまで同じだったせいかそれは今も続いている。
でも、昔と今ではその関係性はちょっと違う。
「ごめん、ごめん。てかメールくれた時にはもうすでにこの時間の電車しか乗れない時間だったんだけどね?」
私はメールを確認してすぐに家を出たんだから、きっとこれ以上早くここに来るのは不可能だった。
それは川口にもなんとなく分かっていたのか、まだ少し不満そうながらも川口は何も言わずにまた目線を落とした。
川口のいるマットは小さな山のように積まれていて、そのてっぺんに座る川口は左肘を後ろにつくような体勢でどことなく偉そうだった。
「どうしたの?朝一とか珍しいね」
「…とりあえず戸閉めろって」
「あ、うん」
三十センチほど開けていた重い扉を閉めれば、ギギギッと鈍い音がしてこの倉庫は体育館の空気を遮断した。
それでも倉庫の隅に小さな小窓があるおかげで、この部屋の明るさは閉める前と何も変わらなかった。
「…こっち来いよ」
「うん」
川口は依然左肘をマットにつくようにして座って俯いたままだった。
持っていた靴と鞄をその場に置いて川口へ近付けば、川口はすぐに顔を上げた。
「そこでその座り方してんのちょっと面白いね。お山の大将って感じ。まぁ山ってほどの高さでもないんだけどさ」
私が少し笑いながらそう言えば、川口は笑いはせずに少し切なそうな目で私を見ていた。
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