第35話
そこであぐらをかいて座り込む彼は、左手で火のついた煙草を持ちながら右手に持つ携帯をじっと見つめていた。
「…こんなところでな」
「わっ…!びっくりした!!!」
私の存在に全く気付いていなかったらしい彼は、私の声に驚きつつも慌てて手に持っていた煙草を地面に落とすとそのままそれを左足で踏んで隠した。
いや、もう全然遅いけど…
「……」
「……」
それで隠せたとでも思っているのか、彼は誤魔化すように笑いながら私を見ていた。
「……」
「…え、何?」
なんかこの人、話し方…
「いや、ごめんなさい…匂いがしたからつい」
私はそう言いながら彼が煙草を踏みつけている左足を指差した。
「あぁ…バレてたんや。え、てか前の方まで匂ったん?」
「うん…あ、いや、私はその匂いを知ってたから気付いたってだけかも」
「あぁ、自分も吸うん?」
「あ、いや、私は吸わない」
私が慌てて否定して首を振れば、彼はフッと笑って「そっかそっか」と言った。
それからやっと左足を上げた彼は、その下で潰れた吸い殻をスッと摘み上げて辺りをキョロキョロとしていた。
「…何探してるの?」
「なんかこれ入れる缶とか…さすがにないか。ここ学校やし。…あ、てかクラスのゴミん中に一緒に捨てとけばええやんな」
そう言ってこちらに歩いてきた彼はそのまま私の横を通ってプレハブの正面側へ行こうとしたけれど、私は慌てて振り返り「待って!」と彼を引き止めた。
「え?」
「そのままだとバレるかもしれないからティッシュに包んでからの方がいいよ」
「ティッシュなんか持ってへんって」
「私ある」
「ほんま?」
「うん」
目の前にいる彼は、鞄の正面ポケットからティッシュを取り出す私をじっと見ていた。
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