第34話

ゆっくり机に近付いてみれば、その両手で抱えるほどあるゴミ箱には小さな付箋が貼られていた。



“人は見かけによらないね♡”



私はそれをしばらく見つめて、ピッと剥がすとそのまま目の前のゴミ箱の中に入れた。



何も考えない。


動揺なんてしてやらない。


反応すれば向こうの思うツボ。


私はゴミ箱の中からそれに被せられていた大きなゴミ袋を取り出すと、鞄を肩にかけてすぐ、黒板に大きく書かれた心無い言葉の数々と私の新しい番号を黙って静かに消した。


他のクラスにも書かれていたりするかもしれない。


でももうそれはいい。


消して回ったところで私の携帯はひたすらうるさいままなんだし、そんな対応こそ向こうの思うツボな気がする。



書きたきゃ書けばいい。


拡散でも何でもしろ。


ラインの通知が三百から四百になったところで大した差ではないから。


そんなことより心配なのはサナやお母さんだ。



私のしたことで、誰に何を言われているんだろう。


そっちの方が何倍も怖くて辛い…





うちの学校のゴミの収集場所は駐輪場の奥にあって、そこにポツンと置かれた小さなプレハブの物置に全クラスのゴミは集められる。


たったそれだけのことを私に押し付けて何が楽しいのか。


これくらい、校舎を出るついででいくらでもやってあげるけど。



ガラガラとそのプレハブのドアを開けてみれば、中にはすでに他のクラスのゴミが所狭しと集められていた。


そこに半ば放り投げる勢いで持っていたゴミ袋を入れると、私はすぐにそのドアを閉めた。



ドアが隙間なく閉まったちょうどその時、私は思わずピタリと動きを止めた。



あ———…



よく知る匂いが、突然ふわっと私の鼻を掠めたのだ。


この匂いを学校で嗅いだことはもちろんない。


でもこの匂いは絶対にトモキくんの…



その匂いに誘われるようにプレハブの裏側へと回り込み顔を出した私は、そこにいた人の揺れるげ茶色の髪の毛に思わず息を呑んだ。




綺麗———…




制服姿で煙草を吸う彼を見て最初に思ったのは、そんなことだった。

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