第32話

———…ガラガラガラッ…


私が入室したのを確認して担任はドアを閉めると、再び「こっち」と言ってその奥の窓際に私を呼んだ。



そこまでして誰にも聞かれたくない話って一体何なんだろう。



「あの…」


「おう、ごめんな。大したことじゃないんだけど」


「……」


「まぁ違うなら違うって言ってくれて構わないし、心当たりがあったらそっと先生にだけ教えてほしいんだ。先生、責めたりせずにちゃんとお前の話を聞いてやるから」


「……」


「お前は真面目だし、高校生活が始まっていろいろ思い詰めたんだろうしな?ほら、勉強とか友達関係とか」


「……」


「だからその…悩みとか」


「あの」


なかなか核心をつくようなことを言わない先生に痺れを切らした私がそう言葉を遮れば、先生はすぐに話すのをやめて優しく「うん?」と言った。



「何の話か全く読めません…」


「あぁ、そうだな……いやな、他の生徒からお前が夏休みに万引きしてるのを見たっていう話が入ってきててな、」


「……万…引き…」


それを聞いたとき、頭が一瞬ぐわんと揺れた気がした。


「あぁ…でもその証拠?的なものが何かあるわけでもないし、その生徒の見間違いってこともありえるだろ?だから他の先生だってまだ誰も知らないし、もし本当にそうなら俺だけに話してほしいんだ。何でそんなことをしたのか」



先生は私の去年のあの出来事を知っているんだろうか。


知っていて、私にそんなことを聞いてきているんだろうか。



「誰がそんなこと言ってたんですか…」


「それはお前、言ったら角が立つだろ?」


角って…


「そいつだって悪意があってそんなことを言ったわけじゃないんだから。お前も犯人探しみたいなことはやめろよ?で、どうなんだ?」


悪意はちゃんとある。


それに気付かない先生は、この二週間うちのクラスの一体何を見てきたのだろう。

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