第5話

「でも今日お母さん夜の七時までパートなんだよねぇ。サナ、今日何時に」


「私無理。放課後予定ある」


「あっ、お母さん、」


ずっと黙っていた私がここぞとばかりに口を開けば、左隣に座るお母さんはパッとこちらに顔を向けた。


「ん?」


「それなら私が———…」



そこまで言ったところで、私はついさっき確認したトモキさんのラインを思い出した。



あ…ダメだ…



「…ごめん…私も無理だった…」


申し訳なさそうに、さっきとは打って変わって小さな声でそう言えば、お母さんはすぐにニコッと笑って「うん」と言った。



私にも何かできると思った。


したいと思った。


役所の人が水道を直しにくるのを立ち会うことくらいが罪滅ぼしになんてなるはずがないことは分かっているけれど、私だって何か二人の役に立ちたい。



お母さんが私には頼もうとしなかったのは、きっと私に無駄な期待なんてしていないからだろう。




余計なことを言うんじゃなかった。


役に立てなかったことに対して心の底から申し訳なく思いながら、私はお母さんが焼いてくれたあまりにも美味しいチーズトーストを音を立てないように一口かじった。



そしてそれを静かに咀嚼して飲み込んだタイミングで、サナの「はっ」と小さく鼻で笑うような声が聞こえて私は思わず目線を上げた。



「お姉ちゃんさ、高校楽しい?」


サナはすでにパンを食べ終えていたらしく、椅子の背もたれに体を預けた状態で牛乳の入ったコップ片手に少し見下すような視線をこちらに向けていた。


「…うん?」


「高校生にもなったら放課後は毎日友達と遊ぶの?ゲーセン行ってプリクラ撮ったり?流行ってるカフェとか?行ったりすんの?」


「……」



さもそれが悪かのように言うサナに私が何も言わなかったのは、その通りだったからではない。


サナからしてみれば、その質問に対する答えの真実性なんてものはどうでもいい。



私の答えが“うん”でも“ううん”でも、サナはきっと怒るんだから。

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