第4話

ススッと年季の入る襖を開けて自室を出れば、目の前のダイニングではこちらに背を向けるよう座るお母さんと、その向かいでこちらを向いて座る妹のサナが朝食を食べていた。


部屋から出てきた私に、母の方を見ていたサナは「それってどう…」と何とも中途半端なところで話すのをやめてチラッとこちらを見たかと思うと、目を逸らすと同時に「チッ」と小さく舌打ちをした。


そんなサナに少し目線を落とした私の耳にポツッポツッと音が聞こえてそちらを見れば、すぐそばにあるキッチンの水道からは水が滴り続けていた。



「…お母さん、水出てるよ」


そう言いながらお母さんの右隣である自分の席に座れば、お母さんは「おはよう」と言いながら立ち上がってトースターのところへ移動した。



「これね、今朝からしっかり止まんなくなっちゃって」


そう言いながら、お母さんはいつものようにスライスチーズを乗せた私用の食パンをトースターに入れていた。



それを聞いて再びシンクの方へ目をやれば、相変わらず水道の水は滴り続けていた。


その真下にはこの家で一番大きいと思われるバケツが置かれていたのだけれど、もうそれもすでにいっぱいで、一滴落ちるたびに縁からはほんの少し水が垂れているからあまりバケツの意味を成してはいなかった。



しばらくしてチンッ!とパンの焼ける音がすると、お母さんは焼けたパンをお皿に乗せてまたこちらに戻ってきた。


「水道代がもったいないから早く直してもらわなきゃね。はい、チーズトースト」


「ありが」


「水道屋さん?」


私の言葉に被せるように言葉を発したサナは、まっすぐに目の前に座るお母さんしか見ていなかった。


「ううん。ここ団地でしょ?管理してるのは役所だから、まずはそっちに電話するの。そしたら役所の人が直接見に来てくれるから」


「それでも直らなかったら?」


「そしたら役所の人が水道屋さん呼ぶんじゃない?」


「それならもう水道屋さんに直接連絡したほうが早くない?」


「お金がかからないに越したことはないでしょ?」


「あぁ、なるほどね」



お母さんが毎朝焼いてくれるチーズトーストは、いつも絶妙な焼き加減で文句のつけどころがない。


焼き時間を一秒たりとも延長も短縮もすることなく毎朝一発で決められるお母さんは、私のことをとてもよく分かっていると思う。

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