第36話

「雨だろうが何だろうが関係なしに外回りに行く人がいるって思うと、自分達はまだ恵まれてると思うよ」


「…うん、それはもちろんだよ…」




はぁ…



こんな大雨で、


ニシヤマくんは大丈夫なのかな…




「じゃあ何?…あ、洗濯物とか?」


「え?」


「でもナナミん家って浴室乾燥付いてるんでしょ?」


ユマちゃんはそう言いながら、今度は手に持っていたクロワッサンに勢いよくかぶりついた。


その時に聞こえたバリバリッというクロワッサンの生地が割れる音が、とても美味しそうだった。


きっとクロワッサンってちぎって食べるよりもかぶりつく方が何倍も美味しく感じるんだろうな。




「うん」


「いいなぁー。うちついてないからもう最近ずっと部屋干しだよー?ただでさえ天気悪いのにそのせいで余計部屋の中暗いし狭いし嫌になるわ」


「…だね」


「……」


「……」


正面を向いて行き交う人達の傘を見ていた私が左隣から視線を感じて不意にそちらに目をやると、クロワッサンを食べ終えたユマちゃんがコーヒーカップを両手で持ったままじっと私の方を見ていた。


「…ん?」


「それだけじゃないんだ?」


「……」


「言ってみなよ。もちろん私で良ければだけど」


ユマちゃんのその言い方はものすごく落ち着いていて優しかった。



そんなユマちゃんに、少し迷った挙句私はゆっくりと口を開いた。

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