第30話
「だから俺、ナナミちゃんのこともうかなり前から気になってて…」
嬉しいはずなのに、私の頭の中はやっぱり目の前にいるこの人じゃなくてその向こうにいる他の女といるあの人だった。
せっかく会えたのに。
家のベランダからでもなく、こんなにも近い距離で。
なのにどうして彼は他の女性といるんだろう。
しかもそんなただ事じゃないような雰囲気で…
神様…
ひどい…
「たしかにナナミちゃんは大人しい子だけど、話しかければいつでも愛想よく答えてくれるし、中身が地味だなんて思ったことは俺一度もないよ?」
「……」
気付けば私は俯いていた。
安藤さんにこんなことを言われて恥ずかしいからじゃない。
男の人とこういう雰囲気になるのが初めてだったからでもない。
もう、他の女の人と一緒にいる彼を見たくはなかった。
…嫉妬、してるんだ。
さっきの安藤さんには抱かなかった感情が今の私の中にははっきりと存在していた。
九年も思い続けている私はその視界に入れなくて、どうしてそのどこの誰かもよく分からない女はそんな簡単に彼の視界に入れてしまうんだろう。
世の中は不公平だ。
思いの大きさでそれ相応の立場をもらえないなんて、そんなのおかしい。
でもその答えは簡単だ。
私にとって今彼と一緒にいるのは“どこの誰かもよく分からない女”だけれど、
ニシヤマくんにとっての“どこの誰かもよく分からない女”は間違いなくこの私の方だ。
どこの誰かもよく分からない、繋がりを聞いたところできっと思い出すこともできない。
…そんなのは赤の他人だ。
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