第29話
「……違う」
安藤さんのポツリと呟いたその声は小さかったけれど、私の耳にもしっかりと届いた。
「そうじゃないよ」
「え?」
「俺はね、」
安藤さんがそう言った瞬間、私は安藤さんの向こう側にいた人の姿に全意識を一瞬にして持っていかれた。
「…っ、…!!」
一週間ぶりに見るその人の隣には、綺麗な女性がいた。
いや、正確には隣ではなく目の前。
ニシヤマくん…
「———…可愛いと思ってるよ、ナナミちゃんのこと」
安藤さんの言葉はしっかりと私の耳に届いたけれど、やっぱり私はその奥のニシヤマくんから目が離せなかった。
駅内の壁を背にして立つ女性と、その目の前にはその女性を壁に追い詰めるかのようにして立つニシヤマくん。
ニシヤマくんはその女性の顔の横に手をついて何か話していた。
顔の距離がものすごく近い…
彼女…かな?
状況的に彼女でもありえそうな雰囲気だな…
私の立つ位置からは少し距離があるのと駅内には人が多かったせいで、二人の会話は全く聞こえなかった。
笑ってる…
ニシヤマくんも、
そんなニシヤマくんを見上げるその女性も…
「———…ナナミちゃん?」
「えっ?」
突然聞こえた安藤さんの私を呼ぶ声は、意識どころかその全てを持っていかれそうになっていた私自身をしっかりとこちらに手繰り寄せた。
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