第11話
「何で叔父さんに聞かなかったんだろうな」
「そりゃああの二人はもう何年も会話すらしてないからね」
「マジか」
「叔父さんからすればいい歳した引きこもりの息子なんてただただ恥ずかしいだけだし、ヒロくんからすれば自分をあからさまに良く思っていない父親なんて煩わしいだけでしょ?」
「あー…」
あの家の事情を聞いたソウちゃんは、少し困った顔で「どの家庭もいろいろあるんだな」と言った。
それはそうだと思うけれど、あの家は私から見たって少し独特だった。
何年も引きこもるヒロくんの気持ちに叔父さんも叔母さんも歩み寄ろうという気配は全く感じられなかったし、あの家で生活してみればその独特さは手に取るように分かった。
それはどこを見てもヒロくんの存在が感じられなかったからだ。
食器とかスリッパや靴とか、歯ブラシさえもそこにはなくて、まるで二人で生活をしてきたみたいな。
「いつも家で何をしているの?」と聞けば、ヒロくんは「家中のあらゆるものを分解しては組み立て直している」と言っていた。
時計やオルゴールから始まり、自転車や自分の部屋のテレビまでしたのだと聞いた時には変わり者過ぎてちょっと引いた。
あと他には頭の良い人のインタビュー動画やラジオを延々垂れ流して聴いているんだとか。
試しにそれを私も聴いてみたらすごく論理的な考えの人ばかりでそこには一切の感情がなく、私はそれをヒロくんらしいなと思った。
やっぱりあの人はかなりの変わり者だ。
「ソウちゃん、ヒロくんに“知らない”って言ったの?」
「あぁ。そしたら“わかった、ありがとう”って言ってすぐに帰って行った」
「そっか…まぁでもバレるのも時間の問題かな」
「…え?」
「ほら、ここって叔父さんの家から目と鼻の先だし」
ヒロくんのことを“決して悪い人ではない”と思いつつも“バレる”という言い方をしたのは、私はいつあの人が“悪い人”になってもおかしくないと思っているからだろう。
私は高校に入って少ししたくらいから今までの間に、ヒロくんに何度か部屋に誘われた。
しかもそれは必ず叔父さん叔母さんが寝静まった夜中で、ヒロくんの誘い文句はいつも同じだった。
『いいこと教えてあげる』
どこぞの誘拐犯だよと思った私がそれに危機感を覚えたのは言うまでもなく、だからもちろん私はその誘いに乗ったことは一度もない。
あの人の部屋になんて行こうものならば、何をされるか分からないと本気で思った。
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