第6話
でも一つ、ソウちゃんとこうして仲良くしていく上で私には絶対に忘れてはならないことがある。
それは私とソウちゃんは幼馴染であって、決して恋人同士なんかではないということ。
でもそれは切なく儚い私の恋心なんかではなく、
好きになっちゃいけないとか勘違いをしちゃいけないとかそういうことでもなくて、ただただ甘えすぎちゃいけないなということ。
きっとソウちゃんなら甘えさせてくれると思うけれど、甘えたところで恩返しはできないだろうから初めから私はそれをちゃんと自覚しておかなきゃいけない。
ソウちゃんはやっぱり暇なのか、依然私の真後ろで私のしていることをじっと見ていた。
私はと言うと、買ってきたばかりの数枚の食器と二つのマグカップを洗い終えて今度はケトルに水を入れていた。
「その水綺麗なのか?」
「へっ?」
そんなところに疑いを持たれるなんて思いもしなかったな。
“それにそもそも破れたりヨレたりしてるタオルをソウちゃんのお母さんが溜め込んでるとは思えないけどな。だってソ———…”
さっき最後まで言いそびれたあの言葉の続きは、言えばソウちゃんがいつも怒ることだ。
“———…だってソウちゃん家はお金持ちだから”
でもそれを言いたくなる私の気持ちも分かって欲しいものだ。
「ウォーターサーバー買えよ」
こんなアパートにこれから一人で住もうって人間に、平気な顔でそんなことを言うんだもん。
「そんなもの買えないって。生活費は一応叔父さんから貰うけど、それだって必要最低限なんだから」
「水なんかそんな高くねぇだろ」
「私からすれば水道以外の水にお金払うって意味分かんないよ?」
「え、これタダじゃねぇの?」
そう言ってソウちゃんが指を差したのは目の前の水道だった。
「……ねぇ、大学生でそれはさすがにヤバいよ?」
「でも店で水に金取るとこってあんまないよな?」
「あんまって…え?逆にお店でお水にお金発生するとこなんかあるの?」
「いや、あるだろ、普通に」
「……」
ソウちゃんの言うその“普通”がきっと、私のそれとは大分かけ離れているからやっぱり分かんないな。
ソウちゃんは何で私なんかのことを気にかけてくれるんだろう。
私はもちろんお水にお金が発生するような高級店になんて行った事がない。
そこに私とソウちゃんの三つの年の差はきっと何の関係もなくて、そう思えばやっぱり私がソウちゃんのことを大人に思えるのは二十歳を迎えたせいなんかじゃないんだと改めて思った。
「IHは?これから?」
「あぁ…まぁそうだよね。IHにしろコンロにしろ、何かしらは買わなきゃ自炊できないよね…」
「IHにしろよ。火事にでもなったらこんなボロアパート一瞬で全焼すんぞ」
「あはは、それはなくもなさそうだね。IHってコンセントのやつだよね?あれって一口のやついくらくらいするのかな?」
「え?いや、埋め込むんだろ?」
「……」
え……あの……
「普通に」
「……」
…いやだからさ、その“普通”が庶民の私にとっちゃ普通じゃないのよ。
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