第2話

インターホンの音だけはしっかりしてるんだな…


ここはいろんな意味でバランスが悪い。



「はーいっ」



今日越してきたばかりの私を訪ねる人なんて一人しか考えられないから特別名乗られなくても分かるのだけれど、



「コトー。俺ー」



それはあまりにも不躾ではないだろうか。


まぁ呼んだのは私だから文句は言えないかと思いつつ、「はいはい」と返事をしながら私はドアスコープを確認もせずにガチャッと玄関のドアを開けた。




「…よぉ」



そこにいたのはもちろん今私の頭に浮かんでいたその人で間違いはなくて、今は十二月に入ったばかりということもあってその人の吐く息は白い空気を纏っていた。



「急に連絡しちゃってごめんね、ソウちゃん」


「それはいいけど…てかコト、お前マジでここに住むのかよ」


そう言ったソウちゃんの顔は少し引いていたけれど、その手にはちゃんと私が頼んだものが入っていると思われる紙袋が持たれていたから私は特別腹が立ったりはしなかった。



「そりゃそうだよ。“この街ならどんなとこでもいい”って言ったのは私だもん」


何の迷いや躊躇いもなくそう言った私に、ソウちゃんは少し間をあけたかと思うと「…はぁ、」と小さくため息を吐いた。




ソウちゃんは私より三つ年上の、私のことを昔から何かと気にかけてくれる幼馴染だ。



今考えてみれば、私達が幼馴染になった理由はよく分からない。


私にソウちゃんと同い年のお兄ちゃんがいるならまだしも私は一人っ子だし、なんならソウちゃんだって一人っ子だ。


家はたしかに近かったけど隣とかではないし、絶妙に入り組んだ住宅街だったからなのかお互いの家からお互いの家は見えもしなかった。






…まぁでも一つ。


強いて言うなら、理由は私のお父さんとソウちゃんのお母さんが所謂そういう関係だったということくらいかな。


うちのお父さんは独身だったから問題はないけれど、ソウちゃんのお父さんとお母さんは婚姻関係にあった。


そしてそれは今もだから、ソウちゃんは私にその話をした時に「誰にも言うなよ」と釘を刺していた。


でも私は自分の目や耳で確認したわけでもなくただソウちゃんに聞かされただけだったから、本当のところ二人がどうだったのかは分からない。





それにもうお父さんはこの世にいないから、私からすれば正直どっちでもいい。





ソウちゃんは今街中の大学に通っていて、こないだ誕生日を迎えて遂に二十歳になったからなのか私にはこの人がとても大人に見える。



…いや、でもどうだろう。


そこに年齢は関係なかったかもしれない。



ソウちゃんは中学生の時からすでに私がしっかり顔を上げなきゃ目が合わないほど背が高かったし、高校生になれば毎日の帰りも遅かったみたいだ。


夜のコンビニで友達数人とわいわい騒ぐソウちゃんを見たことだって何度もある。


その度に私はそんなソウちゃんに“もう住む世界の違う人間なんだなぁ”と思っていたのだけれど、だからこそよく分からない。




どうして今でも私なんかのことを気にかけてくれるのか。

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