第29話

それから私達は、連絡先を交換した。


「番号教えてよ」


聞いてきたのはまさかの彼の方だった。



それから彼は、たまに夜私に電話をかけてくるようになった。



話すのは他愛もないようなことばかりで、私にはそれがとても楽しかった。


初めはたどたどしい受け答えしかできなかった私も、次第に普通の会話ができるようになっていた。




『てか今更なんだけど、彼氏とかいるんだっけ?』


「いませんよー。いたらこんなに他の男の人と頻繁に電話なんてしないですし」


私のその言葉には少しだけ嫌味がこもっていた。


だって彼には彼女がいる。



『そっか、そうだよね』


「スワさんは?彼女いるんですよね?」


『え、誰に聞いたの?』


その反応に、バカな私はほんの少し期待した。


「他の先輩が前に言ってました」



“もう今は別れたよ”とか、“昔の話でしょ”とか…


“いたら他の女の子にこんな電話しないでしょ”とか。



でもその期待がただの“期待”でしかないということは私もちゃんと分かっていた。



『あぁ、そうなんだ。…うん、いるよ、彼女』



そう、彼の彼女は高校の時から今も変わらずずっとあの人だ。


だって私は彼のSNSをいまだにチェックしているから、知らないわけがない。



彼は、私と仲良くなって私達がお互いにSNSでフォローし合っていることにとても驚いていた。


やっぱり彼にとって私へのあのフォロー返しは単なる作業のようなものだったのだろう。


私はその時、知らないフリをして「本当だ!」と驚いた反応をした。







「彼女いるのに電話とかしていいんですか?」


冗談混じりにそう聞いた私に、


『いいよ。…向こうは俺のことなんか全然気にしてないから』


彼の寂しそうな声が私の耳に届いた。



「…うまくいってないんですか?」


私は最低な女だと思う。


先輩は明らかに寂しそうな反応をしていたのに、それを嬉しいと思いながらこんなことを聞くなんて。



『うーん…よく分かんないわ。…彼女、あんまり俺のこと好きじゃないみたいだし』



…ほらね。


私の思っていた通りだ。


やっぱりあの人は彼のことを彼ほど好きなわけじゃない。



その日をきっかけに、彼は私に彼女の愚痴をこぼすようになった。

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