第28話
「えっ…あっ、」
「アイツらうるさいよね。酒も無理して飲まなくていいよ?フリだけしときな?」
彼は思った通りの優しい人だった。
「全然!賑やかで楽しいです!それにこれは烏龍茶ですっ、…私は未成年なのでっ、」
「あぁ、そっか!あはは、そりゃ飲んじゃだめだわ!」
その笑顔は、SNSで見るよりも遠くから見るよりも何倍も爽やかだった。
「君、いつも集まりに顔出してるよね。テニス好きなの?」
テニス…全然好きじゃないしいまだにルールとかよく分かってないけど…
“あなた目的で入っただけです”なんてことももちろん言えない私は、「なんとなく興味があって、」と曖昧な言葉を返した。
「そっかそっか。うちのサークルゆるくてごめんね?テニスするっつってもほとんどふざけて遊んでるばっかでしょ?今日なんか途中でドッヂボールしようとか言い出した奴いたし」
「そんなことないです!みなさん、未経験の私にラケットの持ち方から優しく教えてくれたりしました!…って、まだそのレベルかよって感じですごく申し訳ないんですけどっ…」
「いやいや、全然!俺らはそれぞれが楽しかったらそれでいいから!」
彼はそう言うと、持っていたお酒と思われるグラスを私の持っていた烏龍茶に軽く当てた。
「これからよろしくね」
…夢かと思った。
こんな自分に都合の良い夢なんてあるのかと、本気で思った。
でも、恥ずかしさや嬉しさから指先まで熱くなっていた私のそれを烏龍茶のグラスの水滴がしっとりと冷やしてくれていたから、その感覚にこれは夢じゃないんだとはっきり分かった。
それからも私は出来るだけサークルの活動に参加して、彼と会えるのを楽しみにしていた。
彼も来ている時は私によく声をかけてくれて、マンツーマンでテニスを教えてくれることもたまにあった。
彼はいつも私を褒めてくれた。
「フォームめっちゃ綺麗だよ」とか「本当にテニスやったことないの?」とか、
空振りしたって彼はそれをいつも軽く笑い飛ばしてくれた。
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