第26話

それからあっという間に一ヶ月が経った。


私はいまだに彼をサークル内で見かけていない。



でも、校内で何度か見かけたことはある。


私服の彼はとても格好良かった。


約二年ぶりとなる彼との再会は、私の抱いてきた恋心を幻滅させるようなことも全くなかった。


そして運のいいことに、私が見かけたその時隣に彼女はいなかった。


SNSを見る限り別れてはいなさそうだけれど、…












それからしばらく経ったころのサークルの飲み会で、



「あっ、スワだっ!!お前めっちゃ久しぶりじゃん!!」


私にとって馴染みのあるその名前に、私は内心とてもドキッとした。


「最近バイトが忙しくて」


そう言いながら私達のいる居酒屋の広い個室に入ってきたのは、私がずっと追いに追いかけていた彼そのものだった。



その顔を見た瞬間、一気に身体中の毛穴が開くような感覚がした。


それと同時に、彼が一人でこの部屋に入ってきたことに私はとても安心した。



私は頭のどこかで彼女もこのサークルに入っていたらどうしようと思ったりしていたから。


それで彼女の予定が合わないから彼も来ていないのかもしれない、とか…


でも、その心配はなさそうだった。



「そんなこと言ってー、どうせお前はあの彼女と遊んでばっかなんだろー」


「いやいや、そんなんじゃないって」



サークル内の他の先輩達が彼の彼女のことを知らない人のように話すということは、きっと彼女はこのサークルに所属しているわけではないのだろう。



その日、私は同じ空間の少し離れたところに座る彼から目が離せなかった。



こちらから見る限りでは、彼は高校の時と何も変わっていなかった。


爽やかさも人当たりの良さそうなその雰囲気も優しい話し方も、もうその全てが私の中の彼そのものだった。


もちろん直接見られなかったこの二年の間もSNSでその顔を見てはいたけれど、生の彼は写真から伝わるものとは比べ物にならないくらいに格好良かった。



それから、私の知らない彼のこともたくさんあった。


彼がビールを飲むことだとか煙草を吸うことだとか、後頭部の襟足を触るのが癖なのか彼の左手は頻繁に頭の後ろに回されていたことだとか。


右手にも左手にも、ペアリングと思われるようなものはつけられていなかった。


左腕につけられていた腕時計は黒のベルトのとてもシンプルなもので、それすらも彼を引き立てる素晴らしいものに見えた。



結局、その日私は彼を少し離れたところからひたすら見つめることしかできなかった。

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