第30話

しかし眠いはずなのに、いっこうに眠れない芽衣胡は何度目かの寝返りを打つ。


「眠れないのか」

「申し訳ございません」

「貴女はすぐに謝るな」

「申し訳ございま……」

「ふっ。私に謝らなくてよい。……まあ慣れるまでは大変だろうが、貴女は何も気にせず過ごせばいい。祖父たちの願いを叶えた私と貴女に、とやかく言う奴はいないよ」


 證の雰囲気が柔らかくなったのを声から感じ取った芽衣胡は、なぜだか胸がツンと苦しくなった。

 きっと慣れないことばかりの毎日に疲れていて身体が不調なのだと思った。


「ああ、だが、貴女のお祖母様は曾孫を見せるまではうるさいだろうな……」

「はい。なので、今日はしっかり眠らないといけないと思いまして……。その……、初夜ですし……」

「ふっ。初夜なのに、しっかり眠るのか? やはり貴女は面白い」

「違うのですか? ああ、どうしよう」


 證の隣で眠ることが初夜ではないらしいと分かり、芽衣胡はまた考える。


 ――ならば初夜とは一体なんなのだ?


「姫のご希望とあらば励むが、いかがしよう」

「励む?」


 初夜はやはり眠るのではない。何かを頑張らなくてはならないのだと思った芽衣胡は上体を起こして素早く正座をすると、指を揃えて證に頭を下げる。


「精一杯頑張りますので、よろしくお願い申し上げます」


 誠心誠意、お願いした芽衣胡の頭上で證が盛大に吹き出す。

 鬼もそうやって笑うことがあるのだなと、芽衣胡はどこか冷静にそう思った。

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