第29話
中央には大きな白い台があるのだと芽衣胡の目には見えた。
白い台は證の膝頭ほどの高さで、證はその白い台に腰を下ろす。
それがぼんやりと見えた芽衣胡は大きな椅子があるのだと思った。
「隣に来るか、そこに立っておくか、どちらがいい?」
返答に困りながらも芽衣胡は考える。
これは何かの試練なのかもしれないと。
すでに『初夜』というものが始まっているならば、證の指示に従えばいいのだと、そう伊津から教えられていた。
しかし證の指示は、『證の隣に座る』もしくは『ここに立っておく』の二択。
この場合どちらを選ぶのが正解なのだろうと首をひねる。
「選べないのか?」
考える時間を費やし過ぎたのだろう。冷たい声が飛んできた。
「はい。申し訳ございません」
「私が決めるが良いか? 拒否はなしだぞ」
「はい。勿論でございます。拒否なんていたしません!」
「そうか。では来い」
證の指示を聞いて、芽衣胡は隣に座る方が正解だったのだと分かった。きっと華菜恋なら正解をきちんと選べたのだろう。
呼ばれるままに芽衣胡は證の隣――と言っても二人分ほどの距離を開けて、白い台の端にゆっくりと腰を下ろした。
固いのだとばかり思っていた白い台に、芽衣胡のお尻が沈んでいく。驚いた芽衣胡の肩がびくっと上がった。
「何を驚いている?」
「あの、……とてもふかふかで。びっくりして……」
「ふっ……。これは寝台だ。床に布団を敷かなくていい。貴女の知らないものが松若にはたくさんありそうだな」
そう言って證は面白そうに笑っていた。
「さあ、もう休みなさい」
「寝るのですか?」
「寝ないのか?」
「いえ……寝ます……」
果たして寝ていいのかと芽衣胡は焦る。證からの『初夜』の指示は隣で一緒に寝ることだったのか、それすら分からない。
だが華菜恋がこの『初夜』で身ごもったことは確かなのだ。きっとこの一緒に寝ることが無事に達成されればやや子がお腹に宿るのだと、芽衣胡は一人納得しながら證の隣に身体を横たえた。
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