第28話

軽い食事が終わると證は「疲れたな」と呟く。


「それでは褥の支度を――」

「ふっ」


 證は鼻で笑うと立ち上がり掛けた芽衣胡の手首を掴んで引っ張った。


 どこに行くのかと緊張する芽衣胡を證は部屋の奥へと連れて行く。


 すると證は奥にある扉を押した。そこは薄暗いが外ではなく部屋だった。窓から月明かりが差し込んでいるが芽衣胡には暗すぎて何も見えない。


「ここに洋燈ランプがある。このツマミを回せば明かりが付く。覚えておきなさい」


 入口近くの壁に、壁付の電灯がある。横に付いたツマミを證がカチリと回せば部屋内が明るくなった。


 明る過ぎない、ほのかな優しい明かり。


 芽衣胡にもぼんやりと電灯のツマミが見えた。


「これを回せば良いのですか?」


 手を伸ばすが届かず、つま先立ちになってやっとツマミに手が届いた。


「踏み台が必要か?」

「いえ、届きましたので必要ありません」

「それを奥に向かって回しなさい」


 證の指示に従い、ツマミを奥へ回す。

 するとカチリと音がして電灯が消えた。


「元に戻しなさい」

「はい」


 今度は手前にツマミを回す。電灯に明かりがつくと、自分で電灯を灯せた喜びに、わあ、と声が出た。


「万里小路にはランプもないのか?」

「え? えっと、いや、その……そう! いつも伊津や女中がしていたので自分でしたのは初めてだったのです」


 もっともらしく言えたと芽衣胡は感じる。


「ふっ、そうか」


 證は力が抜けたように笑うと部屋の中央へと歩く。

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