第26話
円卓は大きくない。芽衣胡が両腕を広げたよりも少し小さめだった。
「腹が空いただろう。こちらに来なさい」
芽衣胡の座る椅子は髪を整えるために円卓を向いてはいなかった。
證は『こちらに』と声を掛けたことで芽衣胡が椅子の向きを直し、自分と向かい合うものだと思っていたのだが、どうしてか芽衣胡は椅子から立ち上がると摺り足でゆっくり證の横まで来るのであった。
そして芽衣胡はそこに膝をつき、正座をする。
「下に座らなくていい」
「え? はっはい。申し訳ございません」
慌てて立ち上がる芽衣胡はまた間違えてしまったと、鼓動が早くなる。
「謝らなくていいと言った」
「は、い」
間違えてばかりだと芽衣胡は落ち込む。襤褸が出るほど、華菜恋でないことが露呈してしまったのではないかと気が気でなかった。
「貴女が座っていた椅子の向きを変えるだけで良かったのだ」
「ああ、左様で」
椅子の向き、椅子の向き――と心の中で言いながら芽衣胡は手探りで椅子の背もたれを探す。背もたれと座面の位置が分かれば向きを直すのも容易い。
ぼんやりと見える背もたれを右手で掴み、左手で座面の横を確認すると證に向くように椅子の向きを整えた。そこに座ってようやく芽衣胡はほっと息を吐く。
「サンドイッチだ」
證は茶色い箱の蓋を開ける。途端に食欲をそそる匂いが漂った。だが芽衣胡はサンドイッチを食べるのも目の前にするのも初めてだった。
「これがサンドイッチ?」
「食べたことがないのか?」
しまった――と芽衣胡は口を押さえる。
しかし證はさほど気にしていないのかタマゴが挟んであるものを手で掴むとそのまま頬張った。
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