第6話


 毎月訪うと言っていた伊津だが、次に光明寺へ来たのはそれから三ヶ月後だった。


 華菜恋の身を案ずる芽衣胡は、伊津の雰囲気に疲労が滲むのを感じて胸がそわそわとする。


「伊津?」

「ああ、芽衣胡様。ご無沙汰して申し訳ございません」


 芽衣胡は首を横に強く振る。

 華菜恋の身に何かあったのかもしれないと思ったからである。だから伊津は光明寺に来ることが出来なかったのではないだろうか。


「何か、……ありましたか?」

「お嬢様が……その……、懐妊されました」

「カイニン? ……あっ、華菜恋のお腹にややが?」

「はい」


 伊津の雰囲気は重苦しいまま。ひとつも喜ばしいことはないという声に疑問を感じる。子どもが出来たというのは目出度いことではないのだろうか、と芽衣胡は首を傾げた。


「伊津?」

「お嬢様は毎日死にたいと泣いておられます。芽衣胡様、わたしはどうしたら良いでしょう? お側で励ますべきでしょうが、何を申してもお嬢様の苦しみが軽くはならないのです。むしろ、日を追うごとに酷くなるのです。生きることを手放して、死の淵へ向かっているようで……」


 わたしはどうしたら――と嘆く伊津の声が掠れて重くなる。


「伊津、泣かないで?」

「ですが……」

「華菜恋も嫁いだばかりで心細いのでしょう? だからこそ伊津が華菜恋の隣で笑っていてあげないとね!」


 ぐすっと鼻を鳴らす伊津の手に芽衣胡は手探りで手を重ねる。


「大丈夫よ! わたしが毎日仏様に手を合わせるから。きっと仏様が華菜恋とややをお守りくださるわ」

「はい……。はい……」


 少しだけ落ち着いた伊津から他にも華菜恋の様子を聞く。


 ふさぎがちで、あまり眠れておらず、食欲もなく、食べてないのに嘔吐ばかりだそうだ。


「それは心配にもなるわね」


 元々体力もなく気も弱い華菜恋。

 自身や周りの変化に慣れず、心と身体が付いていけないのだろうと芽衣胡は思った。


 伊津の話しを聞きながら、同時に伊津をも励ます。


 ようやく落ち着いた伊津が帰ると芽衣胡は阿弥陀様の元へ向かった。


「阿弥陀様。どうかどうかわたしの姉、華菜恋をお守りください。わたしの慎ましやかな日々を華菜恋にも分けていただけないでしょうか? どうかどうか阿弥陀様、華菜恋とお腹のややをお守りください」


 微かに光の届く右目に涙が浮かぶ。

 芽衣胡はそれから毎日、阿弥陀様に華菜恋とやや子の安寧をお祈りしたのだった。

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