第4話


 華菜恋が陽向ならば、芽衣胡は日影――表に出ることを許されない日影の子。

 

 華菜恋と芽衣胡は双子だった。

 可愛くて瓜二つの双子だった。


 しかし、双子は不吉だとする祖父と父は次女の芽衣胡を「殺せ」と言った。


 ――双子など災いのもと。火種となる前に殺してしまえ!


 だが芽衣胡の母は、芽衣胡を腕に抱いてその小さな命を守る。


 ――この子を殺すならば、わたくしも一緒に死ぬまで。どうか、どうか殺すなどと言わないでくださいませ!


 必死の懇願に負けた祖父と父は、芽衣胡を生かす代わりに自分の前に連れてくるなと吐き捨て、どこかへ捨てるよう命じた。


 そして万里小路に生まれた姫は華菜恋一人としてお披露目される。


 双子ならば二人で一つ。

 しかし二人に分け与えられるべきものは全て華菜恋に与えられた。


 万里小路の全てを与えられる華菜恋と、死の代わりに何も与えられることのない芽衣胡。


 芽衣胡は万里小路の名さえ冠さない。親なし孤児となった芽衣胡は育児院に身を寄せることとなる。


 芽衣胡は影――日の下に出ることを許されない日影の子。


 芽衣胡が見るのは闇。


 闇の子は闇の子らしく視力などなかった。ただ右の瞳にだけぼんやりと微かな明かりが届く。


 芽衣胡はそれを仏様から与えられた希望の光だと信じて疑わず、光明寺に坐す阿弥陀様へ朝な夕なに手を合わせたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る