第34話

この人、よくみると目尻にシワが寄っている。


きっと苦労をされたんだろうな。



なんとなく話しやすい雰囲気があって、会話をするのに抵抗感はなかった。





「国の特別史跡、特別天然記念物にもなってるんだよ。寛永2年頃から松平正綱公が約20年の歳月をかけて植栽して東照宮に寄進したものらしくてね、とっても幻想的なんだ」


「杉並木…」


「うんうん。今も約12,500本が現存していてギネスブックに乗るほどだ。大迫力に圧倒されるこの感覚を、つい誰かに伝えたくなる」


「そうなんですね。楽しみです。それから、やっぱり陽明門ようめいもんは絶対に見たいですね」


「ああ、いいねえ、ちょうど大修復が終わった頃だというし、タイミングもいいね」




陽明門は、日光東照宮の中にある有名な建築物だ。


豪華絢爛な造りは外国人観光客にも人気があるんだけれど、




「えっ?もう終わったんですか?」




あれ、私が先月に行った時ってどうだったかな。




「うん終わったよね? 国宝「陽明門」をようやく一般公開したのは、ニュースになったよ」


「へえ、知らなかった。たしか、先月行った時は………修復中で見れなかったんです」




寺社仏閣を訪れた時に、運悪く修復工事をしていると少しガッカリするものだと思う。


陽明門の修復作業は確か去年、2013年からスタートしたと聞いていた。


今回はめちゃめちゃはやく終わったんだな…。





「今度こそ、ちゃんと見れたらいいね」


「はい!」





やんわりと目を細めるおじさんに私も満面の笑みをこぼす。




人と会話をして気づくものがあるという。


自分の好きなものは案外自分でも知らないものだ。話していて、実は日光に詳しいことを自覚した。


私がこんなに観光地日光を好きだったなんて。


東京方面に行かなかったのは、そういうことだった。



すると隣から「一つ聞いてもいいかな?」なんて声がかけられてくる。





「若いのに日光が好きだなんて、なにか特別な思い出があるのかな?」

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