第31話

「特に東照宮の入り口の神橋がたまらなくいい。神聖なパワーが集まっている感じがするね。あそこから歩いていってこそが東照宮観光ってものだよ」


「そうそう、近道して参拝するのはもったいないです」


「あの山間にかけられた朱色の橋と、岩場からの水しぶき、木々の緑は、まるで神の世界への入り口のようだと思う」




それにしても、まさかこんなところで意気投合をするなんて。


喋ってみると、自分が実はこんなにも日光を推しているという事実を理解して驚く。





「いろは、楽しそう」




すると、前方からハルナさんがつまらなそうに頬杖をついている。


眼鏡拭きでレンズの手入れをしながら、さりげなく会話を聞かれている様子。





「うるさいな」



さっさと何処かで降車してくれればいいのに。






「ハハハ、いいですね。お二人で日光デートですか?」




ああもう、せっかく話が盛り上がっていたのに、ハルナさんが口を挟んでくるから。


変な勘違いをされたじゃん、と嫌な顔をする私を他所に、ハルナさんは満更でもなさそうにしていて、




「もちろん、そうで──」


「ちょっと! 違います!」




グン、と前のめりになる身体。


おじさんの問いかけにハルナさんが即答するのだから冗談じゃない。




デートをするような仲なわけない。


あるとすれば、この人が一方的に私についてくるということくらいだ。




「おや?仲睦まじくて微笑ましいと思っていたのですが」


「ふふ、それは嬉しいです。ありがとうございます」


「いやいや違います。この人とは今日、ここではじめて会って………、いや…会ったっていうか一方的に声をかけられたっていうか…」





ああ、もうハルナさん、いちいち肯定するのをやめてほしい。



ハア、と溜息をつく。


ようやく丸眼鏡を装着したハルナさんをシッシと払った。

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