第30話

「ああいいですねえ、日光に行かれるのですか?」




すると、何処かから声がかけられた気がして顔をあげる。


ハルナさんではなかった。


途中の駅から乗車してきた、私の隣の席の男性だ。




白髪がところどころ目立つけれども、物腰がすごく柔らかい感じのいい人だった。


40代〜50代に見えるその人は、私が開いている観光マップをシゲシゲと眺めている。




「あ、はい。そうです」


「いいなあ。開いているのを見ていたら僕も久々に行きたくなりました。よく日光には行かれるのですか?」


「うーん、どうでしょう。確か前回訪れたのは……」




そう聞かれるとどうだろう。


最後に訪れたのは確か…。




「そうそう、先月です。ゴールデンウィークに」


「先月ですか…。ゴールデンウィーク、いいですね。最近ではダイヤ改正で浅草から日光へもさらに行きやすくなりましたし」


「へえ、ダイヤ改正……そうなんですね」



ポロシャツにチノパンを履いているおじさんのことを見上げる。





「やっぱりいいねえ、東照宮は」





腕を組んでいた彼は誇らしげに語り始める。

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