第29話
額のシワだと思っていたものは口に見える。
ヒゲだと思っていたものは髪に見える。
「トリックアートみたい」
「トリック?」
「でもこれは、違うと思います。多分、担任のハゲの先生です」
「ハゲ?」
「きっとこの時の私は相当暇だったんですよ。描いたことも覚えてないですが」
手帳は横によけて、また車窓を眺める。
時は流れるけれど、毎日同じことの繰り返しのような気がしてならなかった。
退屈で、この先どうなるのかも分からない。
それなのになんのために勉強をするのだろう、とか、漠然とした不安が押し寄せてくる。
高校生というものは大人でも子どもでもない。このまま時が止まっていてほしい気もするし、はやく大人になって自立したい気持ちもあって、複雑だ。
──私は、その答えをこの旅に求めているのかもしれない。
東武日光駅についたら、趣のあるお店が並んでいる。食べ歩きをしながら東照宮まで行こうかな。
ロマンチック街道を通ってゆっくり景観を楽しみながら、のんびりと。
──目を閉じると、記憶の片隅にある荘厳な風景が飛び込んでくる。
壮大にそびえたつ
木々に挟まれた一級河川の
それらは自然の偉大さと神秘さを感じさせる。
聖地日光の表玄関を飾るにふさわしい朱塗に映える美しい
神橋は、国の重要文化財に指定されていて、1999年12月に世界遺産に登録された。
奈良時代の末に、神秘的な伝承によって架けられたこの橋は、神聖な橋として尊ばれている。
特に現在は、もっぱら神事・将軍社参・勅使・幣帛供進使などが参向のときのみ使用されていて、一般の通行はできない。
山間の峡谷に用いられたはね橋の形式としては、日本で唯一の古橋であるそうで、日本三大奇橋である山口県錦帯橋、山梨県猿橋に並ぶ一つと言われている、と何処かで調べた気がする。
目を開け、観光マップを手にしながら、鮮やかな景色に思いを馳せる。
やっぱりいいな、日光は。
あの場所でしか味わえないものがきっとある。
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