第29話

男は立ち上がって私の通帳をカバンから取り出すと私に投げつけた。




「返してやるよ。」そう言うと家を出て行った。





ママは「お願い、待って。行かないで。」と、縋りつきながら泣いている。





「俺、他に本命いるよ?金ないからこっちに転がっただけ。お前にもらっていた金も全部本命との生活に充ててるから。じゃあな」そう言ってママを強く振り解いた。




ママは絶望的な顔をして泣いた。





「……鈴、これで満足?私の幸せを奪って。今までの復讐なの?」ボロボロの顔で私を見た。





「違う。ただ、ママも私も幸せにはなれないと思って…「私は幸せだった!……」





泣き喚くママに「警察には…言わないから。」そう言った。





通帳の中身は空だった。





頑張って貯めてきたけど、仕方がない。また、貯めるしかない。





「私、バイト行ってくるね。」ママにそう伝えると家を出た。

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