第5話

──…




「ごめんなぁ、さっちゃん、忙しいのにな」


そう言って困ったように笑う ひいおばあちゃんは、今年で90歳になるらしい。今日は仕事が休みだったから、お母さんに「車で送ってあげて」と言われた。


90歳だけどまだまだ足も頭もしっかりしているし、美春という可愛い名前を持つひいばあちゃんはいつもタクシーで行っているところがあって。


それはひいおじいちゃんが住んでいる施設。

アルツハイマーなのか認知症なのか。なんでも全く記憶が出来ないらしくて、あったことをすぐに忘れ。過去の出来事も分からないらしい。


ひいおばあちゃんは、毎日、ひいおじいちゃんに会いにいく。



ひいおじいちゃんは、ひいおばあちゃんのことさえ忘れているようで。おじいちゃんが言っていたけど、2人はすごく仲のいい夫婦で有名だったんだそうだ。




施設につき、もう顔パスになっているおばあちゃんはそこの施設のスタッフに頭を下げている。

目的の階につき、同じような老人が沢山いるのに、テレビの前で車イスに乗っている男性の元に迷うことなく近づくひいおばあちゃんは、「おはよう」とひいおじいちゃんに声をかける。



記憶のないひいおじいちゃんには、ひいおばあちゃんが誰か分からない。

だから誰だって顔をするけれど。




「綺麗な人やなぁ…結婚してくれへんか」




ひいおじいちゃんは、ひいおばあちゃんと喋っている最中、そんな事を言って嬉しそう笑う。



その現場を見ていたスタッフの人が、「凄いよなぁ」と、私の顔を見ていった。



「奥さんのこと忘れてるのに、毎日奥さん来たらプロポーズするねん。この階でも40人ぐらいおじいちゃんおばあちゃんおるのに…、絶対他の人には言わへんのよ」





その言葉は、毎日違うらしいが、必ずひいおばあちゃんに〝プロポーズ〟をするらしく。







帰りの車でひいおばあちゃんに聞いてみた。「ひいおばあちゃんの顔、すごいタイプなんかな?」って。




そんなひいおばあちゃんは、「赤い糸で繋がってるからやろなぁ」と幸せそうに笑っていた。














終わり





映瑠さま、方言企画

ありがとうございました


2021/10/10

白川真琴

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赤い糸のプロポーズ【完】 @shirakawamakoto

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