第3話

──────









「──…私ね、この世界っていうのかな、好きなの」



プカプカと、煙草を吸っているコウセイは私の話を聞いているか分からないけど。

今日もサボっているように見えるコウセイの横で、私はおしりを地面につけて座っていた。


所持金がなく、今日はお店にいけないと分かっているのか、コウセイは私を〝お姫様〟と言ってこない。



「地元の子に会えば、学校行ってないの?とか、なんで行ってないの?とか。夜の高校?行けば?とか言ってくる。……そんなの事情があるからに決まってるのにね。わざわざ聞いてこないでよって思う」



多分、コウセイはあまり私と変わらない歳ぐらいで。それでも肌の色が白いためか夜の世界に

混じり大人っぽい。あんまり笑わないコウセイは、ずっと煙草を吸ってる。



「それでも、ここにいる人たちは、何も言って来ないから。すごく楽なの…」



ユタカも…。

私が喋るだけで、何も聞いてこない。



「……プライバシーな事は、グイグイ聞くもんじゃねぇしな」



やっと返事があって、立っている彼を見上げれば、コウセイはどこかを見ながらまだ煙草を吸ってる。



「そっか…」


「元々、頭いいやつはこんなところに来ない。中退は当たり前だし、別にお前が珍しいって訳じゃねぇから聞かないのもあるのかもな」


「じゃあ、あなたもバカなの?高校行ってないの?」


「プライバシーだわ、それ」



…ふ、と、笑ったコウセイに、私も少しだけ笑って「そうだね」と返事をした。

夜の住民になった人。

この人だって、きっと色々あるのに。




「コウセイさん、煙草吸ってこんなところでサボってていいの?」


「なにが?」


「なにがって…、客引きっていうの、しなくていいの?」


「なんで内勤がするんだよ」



鼻で笑うコウセイは、「ふつーに休憩」と、煙草を地面に落とした。


休憩?客引きじゃないの?

今までたまに外でこうして煙草を吸っていたのは、休憩中だったから?



「お客さん見てるかもなのに…」



どこからどう見ても、サボっているように見える。



「別にどうでもいいしな、店が潰れても」


「…そうなの?」


「さっき言ったプライバシーの話でいうなら、俺がここにいるのは身内がヤレって言ってきたから」


「…身内?」


「バックが強いとな、結構自由にしていいもんなんだよ」



軽く笑うコウセイ。



「……じゃあな、そろそろ戻るわ。お前、変な男について行くなよ」



そう言ったコウセイは、店の方に戻った。

私はユタカがいるイルミネーションの看板を見ながら、ユタカの笑っている顔を思い出していた。


私を、温かい心で受け止めてくれる人。


そんなユタカはどうして、ホストになろうと思ったのかな。

コウセイは店が潰れていいって言ってたけど潰れてしまえば私はもうユタカに会えなくなるのだろうか?



たとえ1分だけでも、私はユタカに会いたい…。

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