第31話

「どういう事ですか?」


怪訝な声。

あと、怒りが含まれるその声はどう聞いてもケイシの声だった。


その声を聞いて、ケイシは〝この事〟に否定的なことを知る。




「なんで俺があの女と結婚っ…、何考えてるんですか。いくら七渡さんでも…」



ここはいつも私がいる部屋だった。それでも2人は部屋の中にいない。何故なら2人は部屋の外にいるから。

扉1枚越しの私にも聞こえるほど、ケイシの声は大きく怒鳴り声に近い。



「あいつですか?孫ですか?孫が女を気に入ったから、金だけ処理して。俺がいらないって言えば孫の元に行く手筈ですか?」




ケイシの声は聞こえるのに、さっきのひと…、ユーリの身内の人の声は聞こえない。




「子供って、…なんで俺の子供を産むんです。……んなの、俺が七渡さんのあとを継ぐかもしれないからって…子供なんか。別に血は繋がってなくても、跡継ぎにはなれる。七渡さんがそうじゃないですか。それなのにヤクザになる子を産めって言うんですか?」



七渡さん、という人は、なんて返事をしているのか。



「冗談が過ぎます…。七渡さんも知ってますよね?俺が女を抱けないことを。産む以前の問題だ」



女を抱けない…



「抱かないとガキは作れない。…借金はチャラ。…もう一度聞きますけど孫のためですか」



孫…。



「孫とは一緒になれなくても、体を売る女にはしたくないってことですか?」



売る女にはしたくない…



「万が一、俺と結婚した女があいつと浮気しても、俺は目をつぶれって言ってるんですか?」



浮気…



「浮気してできたガキを、俺の子として育てるんですか?」



浮気…

俺の子…



「っ、なんであんたの身内の時だけ…」



身内の時だけ…



「ユウリは関係ない」



小さい声だけど、さっきの男性の声も聞こえた。



「…ありますよ、借金がチャラんなって、俺も抱けずにいれば、女は普通に住むだけだ…。いい待遇になる…時期若頭の女となれば…」


「…」


「七渡さん…、売り物は売り物ですよ。俺らが幸せにする存在じゃない…」



売り物は…

幸せにする存在ではない。





「お前、さっきから誰に口をきいてる」


「…、すみません…」


「…」


「…」


「…確かに、情が移ったな。あの子を見て昔を思い出した」


「昔?」


「…あの歪な髪が、死んだ妻に似てた。それだけだ」




死んだ妻…。

そう言った男性に、ケイシは告げた。




「なら、分かるでしょう、俺はマユ以外の女と一緒になるつもりは無いですよ…」




その声は、すごく苦しそうだった。

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