第29話
やっぱり、その声は40歳以上にも聞こえる。
ただ分かるのは、多分ここの組織の人で、男性で、ユウリの知り合いって言うだけ。
彼らの言う〝西田さん〟かと思った。
だとしたら、やっぱりヤクザ…。
「震えなくていい。少し話がしたいだけだ」
震えている?
そう持って自分の体を確認すれば、肩あたりが震えているのに気づき。自分の手をグッと握った。
声は出さず、頷くだけ。
ユウリに声が似ているとはいえ、怖いものは怖いらしい……。
全く知らない人。
「気に入ってるのか? 別に声に出さなくていい」
気に入ってるのか?
そう聞かれても、頷く事が出来ない。
だって私の持つ感情は〝気に入ってる〟じゃないから。
彼に会いたいという感情が〝すき〟という気持ちなら…。
もう私は、とっくに彼に恋をしているのだから。顔も見たことがないのに。好きになってはいけない人。
もう、私が体を売るのは分かってる。
ケイシが言っていたことをぼんやりと思い出していた。好きな人がいながら、他の男性に股を開くのは、どれだけ残酷か…。
「あの人は、優しいから…放ってはおけないのですよね…」
「……」
「…彼とは…もう、会いたくありません…」
これ以上好きになってしまわないように。
本当はすごく会いたい…。
私に優しくしてくれた人。
〝私〟という地獄に巻き込むわけにはいかない。
「彼に、もし、会うことがあれば、…お礼だけ言って頂けませんか…」
「…お礼?」
「すみません……伝言なんて、していい立場ではないのに……」
思わず、泣きそうになった。
「………分かった。しておく」
やっぱりこの人は、柚李と親しい人なのか。
そう思った時、あることを思い出した。
ここにはユウリの身内がいるのことを。
もしかして、目の前にいる男性はその人では?
「ありがとうございます…」
ということは、とても立場が高い男性。
そんな男性が立ち上がる気配がして。
「……たった今、お前の売り手が決まった。」
頭の上から、静かに低い声でそれを告げられる。立場が高い人が言うことは絶対。間違いないのだろう。
売り手…。
体を売るところ?
たった今?
それに驚いたのは、まだ私の目が見えていなかったから。見えてなければ、価値は下がると言われていた。
「…内臓ですか? 死ぬのですか?」
「いや」
いや…。
「お前のことは俺が買わせて貰う」
「…え?」
「お前の借金はナシにする」
「…なし、ですか、?」
「分かるか? つまりお前のことは俺が好きにしてもいいってことだ」
「……」
好きに、と、言われても。
「お前にはケイシと結婚してもらう」
この人の言ってる意味が、分からない…。
「目が見えなくても、子供ぐらいは産めるだろう?」
ユウリと血が繋がってるかもしれない男性が、残酷なことを告げる。
目が見えなくても…。
「……あなたは、ユウリさんとは似てませんね…優しくない…」
……静かにそういえば、少しだけ彼が笑ったような気がした。
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