第33話

自由……

自由、とは。

自由?



「もう殴られることもないし。ババアの入れた飲みもんも飲まなくていい。佳乃が犠牲になることは無い」



殴られる事も……?

薬も飲まなくていい……?

私が犠牲になることは──。



「それでも、まあ、壱成さんの関係は言われるかもしれない。族の頭をしてる人だから。──そういう、なんつーの、バカしてる人間をあいつらは嫌うから」


「お兄ちゃん……」


「だからこれからは佳乃次第」


「……わたし?」


「壱成さんがどんな人か、あいつらに教えてやれ」



どんな人か……。

私のことを考えてくれる優しい人だと?



「わたし……、壱成さんと会ってもいいの?」


「それも、親の許可が得たらって話な」


「好きでもいいの……?」


「いいよ、佳乃は自由なんだから」


「──……自由……」


「そうだよ」


「……」


「なあ、」


「……?」


「好きか?壱成さんのこと」



好き。

好きだよ。

でも、もう、関わらないでって、言ってしまったのに。



「私もう、壱成さんを拒絶したの……」


「拒絶?」


「何もしないでって。会うのは1年後って…」


「……ああ」


「それでも、私から会いに行っていいの?」


「いいんじゃねぇの?」


「でも、嘘をついたことになる……」


「あの人、お前の嘘に怒るか?」



怒らない……。

壱成さんは私に怒ったことなんてない。

首を横にふれば、お兄ちゃんの笑った気配がした。



「頑張れ、応援してる」


「……お兄ちゃん」


「ん?」


「……ありがとう……」



お兄ちゃんはまた笑うと、私の頭を撫でた。



「けど、暫くは様子見。動画がある限りは大丈夫だとは思うけど」


「うん」


「つか、礼なら壱成さんに言ってくれ」


「……壱成さん?」


「お前を守ってくれたのは壱成さんだろ?」

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