第31話
干して乾いた制服を来た。ブランケットと山本さんのパーカーを袋の中に入れた。これは私が使ったもので、洗濯をしなければならないから。
帰りも、タクシーだった。壱成さんにお金を返さなければならない。またお礼の品物を用意しないといけない。それを壱成さんに伝えなければならない、のに。私の口からはそれが出てこない…。
静かなタクシーの中で、壱成さんが口を開いた。
「あの髪留めは、あんたのために買ったものだ。使ってくれ」
罪悪感で使ってないことを壱成さんは分かっていた。頷いて返事をすれば、壱成さんの口角が笑うのが分かった。
そんな壱成さんを見つめていれば、壱成さんのスマホが鳴り、壱成さんがそれを確認した。
その画面を見て眉を寄せた壱成さんは、何も返事をせずその画面を閉じた。
「……何かありましたか?」
「いや、」
「……」
「あんたが親を大事にしてるのは分かった」
「……」
「俺はあんたの親には何もしない」
「…はい」
「それでも、」
「……」
「万が一、あんたが泣くことがあれば…」
「……」
「俺がいつもそばにいることは忘れないでくれ」
タクシーが家の前に着く。家の前について見つけたのは、普段着姿のお兄ちゃんだった。私たちを待っていたらしい。
タクシーをおりた壱成さんに、お兄ちゃんが深く頭を下げた。
「ありがとうございました、」
頭を下げながら言ったお兄ちゃん。
「両親は?」
「中に」
「……」
「まだ警察を呼べと騒いでます」
お兄ちゃんの言葉に目を見開いた。まさか、壱成さんを?壱成さんに何かするつもりなの?
「そんな、私が、私が悪いの……。みんなを巻き込んで……」
「大丈夫、あいつらは呼ばない。呼んで困るのはあいつらの方だ」
呼んで困るのは……。その言葉に視線を下げた私は、頭を抱えた。
「圭加」
壱成さんがお兄ちゃんの名前を呼んだ。
お兄ちゃんはそれに頷くと「分かってます」と、また頭を下げ。
袋を持っている私も、壱成さんに頭を下げた。
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