第28話

始まりはいつかは正確には分からない。

ただきっかけはお父さんの暴力。それは間違いない。


元々昔から、この地域の治安が悪いと言うよりも、教育熱心のお父さんとお母さんは、「勉強しなさい」が口癖だった。

それに刃向かって私立の中学に通っていたお兄ちゃんは学校を辞めた。


お兄ちゃんが私立をやめ、怒ったお父さんの矛先はお母さんに向かった。「お前が圭加を見ていなかったから」だとお母さんに暴力をしたのを覚えている。


それから、お父さんとお母さんの中ではお兄ちゃんは歪の存在だった。私立を辞めたお兄ちゃんは我が家には必要ないと。


お母さんは今度こそお父さんに暴力を振るわれないように、私を〝洗脳〟しようとした。

お母さんは私にお兄ちゃんみたいに〝家以外の楽しさ〟を教えないために、学校以外は家にいるようにと教育した。

それでももう中学に入っていた私は、〝家以外の楽しさ〟を知っていた。


中学時代、「遊んできてもいい?」と言った翌日、お腹が痛くて遊びに行けなかったのが、お母さんが私に隠れて薬を飲ませたのが、1番初めだと思う。


その時は何か悪いものを食べたと思っていた。

気づいてなかった。

そして別の日に「明日、友達の家で勉強するね」って言った翌日、またお腹が痛くなって行けなかった。


────その時はまだ、〝下剤〟だけだった。

それでもまだたまたまだと、不幸が偶然と重なっただけだと。


「友達とご飯食べに行く」と言ったその翌日もお腹が痛くなり──、お母さんが私を病院に連れて行った。

何の検査をしたのか分からないけど、家に帰ったお母さんから「あなたにアレルギーが出てる」と言われた。


「だから何が入っているか外食は言ってはいけない」と、外食する事ができなくなった。お母さんが作るもの以外、アレルギーがあるから食べてはいけないと。


私はそれまでアレルギーなんて無かった。不信に思ってアレルギーと言われた卵を隠れて食べた。私の体には何の症状も出なかった。


どうして……と、お母さんに聞こうとした時、リビングでお父さんとお母さんが話しているのを聞いた。



「作るものは難しくなると思うが、佳乃のためだ。頑張ってくれ」



そう言ったお父さんに、お母さんは笑って返事をしていた。お母さんはお父さんに暴力を振るわれないために、〝私を使っている〟。そう気づいたのはすぐだった。


食物アレルギーが増え続け、私だけサラダばかりの食卓。私だけ無農薬の野菜。私だけが──……。

私が「〜〜をしたい」と言えば、私の体がおかしくなった。そんなお母さんは私を見て言う。「あなたは食べられない分、体が弱いのだから体調を崩しやすいのよ」と。


──それは違う、お母さんが、飲み物の中に何かを入れているから。

薬剤の作用、副作用で、私の体はおかしくなっている。



それが確信に変わったのが「食べられないからって、それはおかしいだろ」と、お兄ちゃんに無理矢理病院に連れていかれた時。お母さんとお母さんに隠れて学校を休み病院に行って、アレルギーの血液検査をしても、やっぱり私にはアレルギーなんてなくて。


お兄ちゃんも勉強をしていた身、というよりも、私の兄だからか、私の反応を見て、察してくれた。


2人に怒鳴ろうとしたけど、お父さんが怖いお母さんの気持ちも分かるし、私が我慢すればいいだけだからと、私は2人には言わないでと首を振った。




それでも、風邪をひいた時、スポーツドリンクを飲んだあと、お腹が痛くなった時は本当に怖かった。

お母さんは風邪をひいている時でも、私に何かの薬を飲ませる。




それが、この数年、ずっとずっと続いてる。

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