第30話

「こ、のへや、に、居ればいいって、教えて、くれて⋯。行こうと、したら、あなたが倒れてました⋯」



教えてくれた?


誰が?



空き部屋だから、ここにいろ、と教えてくれた人がいるの?



「だ、誰ですか、教えてくれた人は⋯」


「あ、そ、れは⋯、え、えっと、あ、た、確か⋯しのさんって、呼ばれてました⋯」



―――詩乃。


できればもう聞きたくない名前だった。



私を精神的に殺そうとした男は、まだ、この建物内にいるみたいで。絶望が私を襲ってくる。




「あ、あたし、その人に助けて貰ったんです!ほ、ほんとに、殺されそうになった所を、助けてくれて!」



少しだけ音量を上げた結乃は、私に視線をうつし。「⋯命の、恩人です」と、本当に詩乃の事を神様のような顔つきで話すから、戸惑いが増してしまう。



命の、恩人?


詩乃が?


本当に?


助けてくれた?


あの、詩乃が?


ありえない、そんなの⋯。


あるわけない⋯。


もしかしたら、私の知っている「しの」とは、別の人間かもしれず。

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