第29話

護衛が2人に戻った。あろう事か、「ミヤとトノって呼んでくださいね」と、言ってきて。そんな簡単に呼べるはずもなく、ただ頷くだけだった。


元々は関わりのなかったクラスメイトなのに、私が〝姫〟になったから〝月さん〟と呼ぶ彼らは、本当に晴陽たちを尊敬しているようだった。


悪人が正義になる。

戦いの中、生き残ったのが悪人ならば、それが正義となる。私もいつかそう思う時が来るのだろうか?


そう思いながら放課後、柚李が待つ校門まで行くと、柚李は少しだけ驚いたように目を見開いていた。

私の後ろにいる2人。

だって護衛は1人のはずだから。



「こんにちは七渡さん」


「ああ…、なんでミヤがいる? 今日はお前だろ?」


「今日から2人に戻りまして…。うちの総長から晴陽さんに連絡がいってると思います」


「…そうか」


「これからもよろしくお願いします」




いつの間に晴陽に連絡したんだろうと思った。

どうやら柚李には知らされてなかったようで。


頭を下げる2人に、柚李は目を細めていた。

柚李は私に視線を向けると「先入っとけ」と、後部座席の扉をあけた。



柚李はまた、今日の出来事を2人から聞いていた。柚李は2人の会話を聞き、最後に「分かった」と言うだけだった。




車内は静かだった、柚李はスマホをさわっていた。そんな柚李はスマホを持つ手を止めると、ふいに後ろに振り向いてきた。



「月」



と、名前を呼ばれ、少しドキリとした。

あまりこの時間の柚李は、話しかけてこないから。



「さっきの護衛、あいつらから言ってきたのか?」


「え?」


「戻せって」



護衛。戻せ。確かにその通りだから、「はい」と言えば「どんな流れでそうなった?」と聞いてくる。



どんな流れ?



「えっと…、迷惑じゃないから、護衛させてください…って、言われて…」


「それで?」


「2人の方がいいって…」


「うん」


「断れませんでした…」


「…もっかい聞くけど、さっきの2人がそう言ってきたのか?迷惑じゃないから護衛させろって」


「…はい」


「分かった」



そう言った柚李は、また前は向き直し、スマホを操作していた。



「あの、何か、ありましたか…」


「いや」


「ごめんなさい…1人から、2人とか、ごちゃごちゃで…」


「そういう問題じゃないから」



そういう問題じゃない?

よく分からなくて首を傾げれば、「……晴陽のやつ…」と、少し低い柚李の声が聞こえたような気がした。

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