緊急会議



夜、古清水家屋敷。


わたしたちは今朝のことで広間で緊急会議を開いた。



「みんなも知っての通り、わたしたちは今日、黒妖集と名乗る者たちに会いました。そして黒妖集のリーダーと思われる蛛之坂劾と名乗る人物の手には魔黒刀があった。あの魔黒刀を見る限り、本物でしょう。多分わたしたちが討伐できなかった妖力が具現化しなかったのは、魔黒刀に闇の力を吸い取られたからと判定します」



みんなわたしの周りに集まり真剣な表情で聞いてくれている。


これまでのこと、これからのこと、考えなければいけないことがたくさんある。


それには今現在の状況を把握する必要がある。


だからこそわたしは改めて今回の状況について再確認をした。



「はい!そもそも魔黒刀って何ですか?」


「あ、それ思った!守らなきゃならない禁忌の刀って以外あたしら何も知らないよね?」



青葉と朱莉は二人とも顔を合わせながら手を挙げて発言した。


確かに、他の七家はあの魔黒刀については知らない。


浅葱でさえ触れてはならないもの、知ってはいけないもの、世に出してはいけないものとしか知らない。


みんなただ危険なもので守らなきゃならないと言うだけ聞かされているはず。


それだけ極秘秘密なのだ。



「あれを見てしまった以上、私たちにも知る権利はありますよね?」



浅葱がそう問いかけると、わたしは頷いた。


そして覚悟を決めると説明を始める。



「魔黒刀とは…大昔に巨大な闇の力が暴走した時があったの。世界を破壊する力ほどの膨大な妖力でこのままでは世界を巻き込む危険があると判断した。初代、わたしのご先祖様がその力をあの刀に封印したの。光の力を持つパートナーと一緒に、命と引き換えに…」



それを聞くと皆は息を飲んで沈黙した。



「その頃の光の持ち主は、どこの家のものだったのですか?」



その質問にわたしは少し黙り込んだ。


これは…言っていいものなのだろうか…?


だがここまで知ってしまったんだ。


みんなも知る必要がある。



「その頃の光の持ち主は…初代火神家の跡継ぎ。弓絃のご先祖様」


「え!!俺のご先祖様!?」



それを聞くと弓絃は驚いた。


わたしはこくりと頷く。


この状況はそうゆう宿命なのか、はたまた運命なのか。


ご先祖様同士の組み合わせにまさかわたしの代でなってしまうとはね…。


でも、それよりも今は、今すべきことは一つ。



「だからあれは外に出ちゃいけないものなの。あれを使えば多くの死人が出る。人を襲う刀でもあるの。あれがどうやって奴らの手にあるかは知らないけど…。だからお願い!みんな力を貸して」



わたしは頭を下げながらそう言った。


もしかしたら誰かが死ぬかもしれない。


自分が死ぬかもしれない。


そう思うと怖かった。


だけどあれは世に出してはいけない。


壊さなきゃならない。


封印も考えた。


だがわたしの知る限りではもし万が一世に出してしまったら、それはもう壊すしかないとしか聞かされていない。


母から、先代から代々伝えられてきたのだ。


みんなはどうだろうか。


力を…貸してくれるだろうか。


わたしはしばらく返答がない周りの空気に拳に力が入った。


すると。



「なに今更水くさいこと言ってるんです?姫様」


「あたしらは八華じゃないですか。みんな仲間です。とっくに仲間です」



青葉と朱莉はそう微笑みながらそう言ってくれた。


わたしは二人の言葉に顔を上げた。


青葉…!


朱莉…!



「姫様。私たちはもうとっくに姫様に忠誠を誓いました。ですから今更あれを見てみぬふりなんてできませんよ」



浅葱がそう言うと伊吹もこくりと頷いた。


わたしが綴と雲雀に目を向けると、綴と目が合い綴は微笑みながらこくりと頷いた。


みんな…っ。


わたしは感動のあまり涙が出そうになる。




わたしの隣に座っていた弓弦がわたしの肩にそっと手が置く。



「良かったな。五十鈴」


「うん!みんな…ありがとう」



わたしは改めてみんなに頭を下げた。


わたしは幸せ者だ。


こんないい仲間を持って。


みんなみんな、わたしの大事な家族だ。


絶対何も失いたくない。


頑張らないと。


わたしたちで。


そして話は明日のことに切り替わる。



「というわけで、明日は魔黒刀が封印されてた場所に行きます」


「また急だな…」


「善は急げって言うでしょ?」



わたしは弓絃にそう言うとみんなに視線を戻した。


善は急げ、行動あるのみ。



「行くのはわたしと弓絃。そして青葉と朱莉」


「え?オレらも!?」



わたしは同行者として青葉と朱莉の名前も挙げた。


それを聞いた青葉は驚きながらそう言う。



「場所が場所だからね。青葉の足は八華の中で一番速いし、あそこは霧が濃いから朱莉なら察知出来るかなって」



青葉は雷の力を持つ者。


とくに足の速さや刀の速さは閃光と呼ばれるほど、八華一。


朱莉の霧の力は濃い霧の中でも敵を完治できる。


魔黒刀が封印されてたところは霧が濃いから、朱莉が頼りになる。



「綴と雲雀、浅葱と伊吹は明日は待機してて。何かあった時のためよ。今日のあの四人は間違いなくこの屋敷の近くまで来ていた。あの四人に結界が通じるかなんて分からない。だからお願い。屋敷を守ってて」


「はい」


「分かりました」



わたしがそう言うと他の四人は頷いた。


今回この四人にはここを守っててもらわないと。


結界だけじゃ心配だしね。



「それに、雲雀にはもう少し考える時間が必要かなって思ってね…。あの遊馬って人、友達だったんでしょ?」



わたしがそう言うとみんなが雲雀に視線を向けた。


雲雀はいつもと変わらない表情ではあるが、どこか曇っているようにも見える。


そんなわたしの言葉に雲雀はこう言う。



「……そんなの、昔の話です。今の僕には関係ありません」



わたしが雲雀に向かってそう言うと、雲雀は拳を握った後俯いてしまった。


綴もそんな雲雀を見て心配そうにした。


あの後わたしは弓絃に付きっきりだったし、雲雀のことは綴に任せたけど…。


心配ね。


わたしは少し考えたが、すぐにみんなの前で顔を上げた。



「はい。では今日の会議はここまでにしましょう。明日は朝から出なきゃならないんだし、弓絃と青葉と朱莉は今日は早めに寝なさいよ?では、解散!」



わたしがそう言って手を叩くと、みんなはぞろぞろと立ち上がった。


ふと雲雀に視線を向けると雲雀もみんなと一緒に立ち上がり、広間から出ようとした。


そんな雲雀に声をかけようとした。


だが先に綴が声をかけようとするのが目に入った。


綴は雲雀に声をかけようとしたがふと動きが止まってしまい、雲雀がそのまま広間を後にするのを見送った。


綴は雲雀の遠ざかる背中をただじっと見ていた。


わたしはそんな綴に声をかける。



「綴」



綴はわたしの呼び声に振り返った。



「……五十鈴様」



綴は普段はクールで真面目で、何を考えてるか読めない時があるけど、今は違う。


いつもと変わらないクールな表情だけど、瞳から伝わる不安さは抜けてはいなかった。


わたしはそんな綴に雲雀の様子を聞いてみる。



「雲雀のこと……何も聞き出せていないの…?」



わたしがそう聞くと綴はこくりと頷く。


そしてこう続けた。



「あの後…五十鈴様が火神弓絃に付きっきりだった時、私は雲雀くんにあの遊馬という男のことを聞き出そうとしました。けど彼は『今は一人にしてほしい』そう言って部屋にこもってしまいました。すみません。何も聞き出せなくて…」



綴はわたしの前で頭を下げて謝罪をしてきた。


わたしは慌ててこう返す。



「いいのよ。綴は悪くない」



わたしは頭を下げた綴を宥める。


あの雲雀が綴に話せないことがあったなんてね…。


するとまだ残っていた弓絃がひょっこり顔を出す。



「綴と雲雀って幼なじみなんでしょ?それでも無理なの?」



弓絃は疑問に思いながらそう尋ねてきた。


もう!


弓絃はまた水差すようなことを言って…。



「幼なじみでも知られたくないものの一つや二つあるものなの。というか何で弓絃が綴と雲雀が幼なじみだって知ってるの?」



わたしは疑問に思ったことを弓絃に問いてみた。


わたしはそんな話を弓絃にした覚えがないなと。


すると弓絃は口を開いた。



「あー、綴と対戦した後に雲雀に言われた。あと綴にあんま近づくなとか」


「青葉の時よりも酷いわね」



わたしは冷めた視線を送りながら弓絃にそう言った。


青葉の時は普通に『つーちゃんを好きにならないでね』で終わったのだ。


青葉も単純だから『おう!任せろ!』って言ったみたい。


あれにはさすがの雲雀も驚いたらしい。


青葉は青葉で一緒にここへ送られてきた朱莉と仲良くゲームで勝負してるし。


わたしは一つ気になっていたことを綴に聞いてみた。



「綴はその遊馬って人と面識はないの?」



わたしがそう問うと綴が首を振った。



「いえ。多分、私と雲雀くんが会う前だと思います。私が雲雀くんといた頃は私が雲雀くんの家に遊びに行くと、いつも雲雀くんが迎えてくれてました。彼も私も付き添いがなければ家から出られない状態でしたし、周りに友人がいませんでした。ですのでそのような少年との接触が…」



わたしは綴の言葉に「そっか…」と納得する。


力を持たなかったわたしたち八華の跡継ぎたちは、外に出る時は必ずそれぞれの先代跡継ぎの同行。


もしくは優れた剣術や対術を身につけている人が同行しないと外に出られない。


何故ならわたしたちは跡継ぎ候補であり、八華の一員になるべくの存在だからだ。


その妻や夫は特に八華を逆恨みする者が多いから命を狙われやすい。


そんな状態だからわたしたちは家で勉強したり剣術を身につけた。


外の世界なんて許可がおりなければ見られなかったのに、今はわたしたちも見られる。


それはわたしたちが八華であるからだ。


わたしがそう思い返していると綴がふと呟くのが聞こえた。



「どうしたらいいのでしょうか…?」



綴は悩みながらそうわたしに問う。


雲雀は現在はあの状態。


早めに立ち直ってもらわないとだけど、理由が理由だから下手に手が出せない。


今は一人にしてほしいと言う雲雀の意見を尊重するのも手。


どうしたものか。


そんなわたしの考えにをよそに、弓絃がこう返す。



「迫ったらいいんじゃないの?雲雀なら綴が迫ったら一発で教えそうだけど」



この人はもう!!


綴が真剣に悩んでるのに!


頭を抱えたくなった。



「あんたなに破廉恥なこと教えてるの!そんなの喜ぶのは弓弦くらいよ。大体そんなこと、綴が嫌に決まってるじゃない!」



迫るって!


何考えてるのよ、この変態スケベ!!


わたしはそう心の中で叫んだ後ふと振り返って綴を見ると、綴が決意したようにスタスタと歩いていくのが見えた。



「そうか。では早速実行してくる」


「綴も真に受けない!」



わたしはそんな綴を慌てて止めた。


綴がつっこまないのも珍しい。


余程雲雀が心配なのが分かる。


やっぱ真面目に考えないとダメよね…。


それにしても、弓絃ってば…!!



「弓絃も綴に変なこと吹き込まないで!綴はパートナーである雲雀が心配なのよ?もう少し真剣に考えなさい」


「わ、分かったよ。悪かったな五十鈴」



わたしが弓絃にそう説教すると弓絃は素直に謝ってきた。


すると綴は弓絃の『五十鈴』と言う言葉に少しぴくりと反応した。


わたしはそんなことを知らずに弓絃につっかかる。



「わたしじゃなくて綴に謝りなさい!」


「あ、ごめん。悪かったな、つづ…」



わたしがそう言うと弓絃は綴の方を見て謝ろうとした。


すると何やら綴から黒いオーラが見て取れる。



「おい。今気づいたがお前、五十鈴様に敬意を払うこともせず、更には五十鈴様のことを呼び捨てに……覚悟はできてるんだろうな…?」



綴は刀に手をかけて今にも弓絃に斬りかかりそうな勢い。


これはもしや怒って…!!



「ま、待って!綴!!わたしがいいって言ったの!」



わたしは慌てて弓絃の前に立ち、弓絃を庇った。


そんなわたしの言葉に綴は驚いた顔をする。



「なっ!?そう…なのですか…?」


「うん」



綴はわたしにそう確認を取ると弓絃の方を見る。


弓絃もこくりと頷いた。


それを確認すると綴はわたしを見てこう言った。



「正気なのですか五十鈴様!!この者は昨晩からあなたに無礼ばかり…」



そんな綴の言葉にわたしはこう返す。



「き…気が変わったの。だって花姫には絶対敬意とか、呼び捨てにしてはいけないなんて決まりないし」



わたしは少し照れながらそう言った。


弓絃はわたしのパートナー。


さすがにこれからも活動を共にするパートナーにまで敬語使われちゃなと、思ってはいたのだ。


それにまだ会ったばかりだけれどこの人は信頼できる。


だから許したのだ。


弓絃が特別というわけではないが、弓絃ならいいと思ってしまっていたんだ。


綴は一瞬だけ俯いて考え込む。


そしてようやく納得したのか表情が無表情に戻る。



「……そうですか。なら仕方ありませんね」



綴はそう言うと刀からそっと手を離した。


そしてわたしに頭を下げながらこう言った。



「では私はそろそろ行きます。雲雀くんの様子も気になりますし。失礼します」



綴はそう言うと綴は自分の部屋の方角へ回り歩き出した。


わたしは慌てて綴に声をかけた。



「待って!!綴!」



わたしはそんな綴を引き止めた。


綴もわたしの声を聞いて振り返り、立ち止まってくれた。



「あなたもいいのよ?わたしに様なんて付けなくても…。だってわたしとあなたは古い付き合いだし、それにわたしはあなたを友達だと…」


「五十鈴様」



わたしがそう言いかけると綴は遮るかのようにわたしの名を呼んだ。


そしてこう続ける。



「私はあなたの護衛です。私とあなたの関係は護るべき姫と仕える武士。それだけしかありません。あなたと私の間にそれ以上は何もないのですから」



綴はそうわたしに言い残すと再び歩き出し、広間を後にした。


わたしはそんな綴の背中を見送るしかできなかった。

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