第32話
ブオンブオン...キキッ...ブロロロ~
ブレーキングとアクセルを上手く使い分け、凄いスピードでやって来るそれ。
「NINJA250か...」
紅葉の言葉に、
「あの色って別注だよな?NINJA250であんなの見たことねぇ」
と返す。
「ああ」
「バイクと揃いのヘルメットも別注でしょうね」
頷いた紅葉と、バイクを指差した美智瑠。
どうやら、こいつらも興味が湧いてるらしいな?
真紅のバイクに。
耳をつんざくような重低音が広がったと同時に全容を表したバイク。
真紅のバイクはまるで生き物みたいに左右に揺れながら、俺達の目の前を通過していく。
真紅のバイクに真紅のヘルメット。
ヘルメットのサイドに描かれた二輪の白いバラ。
そして、俺達は気付く。
「...女」
紅葉はそう言うとゆるりと口角を上げた。
それはまるで欲しかった玩具を見つけた子供のように。
ヘルメットの下から揺れる黒い髪をたなびかせて、バイクは猛スピードで駆け抜けていった。
「「「「キャー!」」」」
「凄い!」
「見た見た?」
「かっこよかったよね。」
ギャラリーと化して真紅のバイクを見てた連中が一気に騒ぎ出す。
手を叩いて囃し立てる者や、瞳を輝かせる者。
この場の空気を、通り過ぎただけの真紅のバイクが支配していたんだ。
小さく消えていく姿を唖然と見送る事しか出来なかった俺の心臓は、有り得ないほど脈打っていた。
「なんだ?あれ...」
やっと出た声も震えてて。
あんな凄いバイク捌きを見たのは久々だ。
しかも女だとか有り得ねぇ。
「大した腕前ですね」
感心したように瞳を三日月に変化させた美智瑠が言う。
「...おもしれぇ」
紅葉のその言葉に俺は何かが動き出したこと感じた。
「追っ手をかけましょうか?」
と冷静に言った美智瑠に、
「いや、あいつとはまた会うだろう。奴がこの街に止まるなら」
とさらりと言い返した紅葉は興味がなくなったとばかりに歩き出す。
その顔はいつもと変わらず無表情だったが、口角が少しだけ上がっていたのを俺は見逃さなかった。
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