第31話

ガードレールに手を置いて、車の波に目を凝らす。



初めは小さかった音がドンドンと近付いてくる。


加速してくるその音に、なぜか胸がドキドキとざわめいた。



なにか、面白い事が起こりそうな予感だ。


こんな時の俺の予感は良く当たる。




「どうかしたか?謙吾」


少し先に行ってた紅葉が立ち止まって怪訝そうに俺を振り返る。



「バイクが来る」


と言った俺に、



「バイクなんて、いつも通りますよ」


と呆れたように美智瑠が俺を睨む。



「違う。いつものじゃねぇ。聞いた事のない音だ。それに無茶苦茶飛ばしてる音がする」


バイク好きの俺は結構耳が良いんだ。



「.....」


悠然と歩いてきた紅葉が無表情のまま俺の隣に佇む。


もちろん目線は俺と同じ方向へ。



お、興味でたか?


おもしれぇ。



これも運命だったのかもな?


何にも興味を示さない紅葉がこんな風にこの場所に立ったのは...。




「...何をしてるのだか」


紅葉まで歩みを止めてしまったことに、溜め息をついた美智瑠。


三人で音のする方向へと視線を送った。



ブオンブオン....ブロロロ~。


低い重低音が繁華街のビル群に共鳴して響き渡る。



うぉ~気持ち良い響き。



通行人達も何事か?と足を止めて、音のする方向を見始める。




高揚する気持ち。


俺は目標物を目を凝らして探した。





小さくポツンと見えてくるそれに、胸が踊った。


黒の中にぼんやりと見えてくる赤。


それも真紅のアカ。



唸るエンジン音。


段々と近付いてくるそれに俺は目を大きく見開いた。



一瞬でも見逃したくない。


そんな思いで。





「...来たな」


紅葉の低い声が聞こえた。


何処と無く嬉しそうに思えたのは気のせいじゃねぇだろ?



「どんな奴が乗ってんのかねぇ」


ワクワクする。



「面倒を起こす奴ならば排除です」


美智瑠は眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせた。



おいおい、まだ来たばっかの奴だって。




そんなことを話してる間に大きくなってくるバイクは、車で埋った道路を速度を上げたまま縫うように進んでくる。



かなりのテクニックを持ってる奴みたいだな。

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