第30話

すっかり暗くなった街。


せっかくの月夜だってのに、繁華街の灯りで夜空は濁って見える。


この街では星は見えない。



夜の蝶達が綺麗に着飾って誘うように歩く姿も。


客の呼び込みに必死なホストクラブの男達も。


夜遊びに興じるガキどもも。


疲れた顔で歩くサラリーマンの集団も。



この街には溢れ返ってる。



そいつらを全て支配するのが、うちの紅葉。



妖艶で、危なげで、野獣のようで。


男の俺でも時々こいつの色気に惑わされそうになる。



まぁ、そっちの趣味はねぇけど。


どんなに美形の男でも、女の子の触り心地の良さには敵わねぇしな。




前を歩く紅葉の横顔をチラッと見る。


ほ~んといつも何考えてんのかわかんねぇよな?



だけど、こいつの何かに、俺も美智瑠も惹かれてるのは間違いない。


だからこそ、大学を卒業した今もこいつと一緒に居るんだからな。




「なんか、面白い事ねぇかなぁ」


後頭部を両手で押さえて薄暗い空を見上げた。


やっぱり星は見えない。



「謙吾は、いつも同じことを言ってますね」


美智瑠に冷たい視線を向けられた。



「だってよぉ。最近、刺激がねぇじゃん」


と言えば、


「それだけ、平和だと言うことですよ」


良いじゃないですか、と呆れられた。



「ま、平和も良いけど。な~んか物足りねぇっうか、なんっうか」


ちょいと刺激が欲しくなるお年頃なんですよ。


な?紅葉と前へと躍り出て紅葉を振り返れば、



「くだらねぇ」


と無表情を向けられた。


だから...その顔怖いんだって。



「ちぇ~んだよ」


唇を尖らせて拗ねてみる。



まぁ、こんなのやってもなんの意味も無いのだけど。




な~んか、ねぇかなぁ?


と大通りへ視線を向けた。



四斜線の大通りは、忙しげに車が往来している。


客待ちのタクシーや迎えの車なんかが路肩に路上駐車してやがるから、若干混雑してる。




そんな中、聞こえてきたエンジンの唸る音。


響きの良い重低音に、俺は耳を傾けた。



この街でこんな音聞いた事ねぇな?


余所者か?



俺は道路沿いに身を乗り出して音のする方に視線を向けた。

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