第29話
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「今度はどこだ?」
俺の隣を歩く美智瑠に問いかけるのは、この街の帝王。
シルバーアッシュの襟足の長いショートウルフの髪をワックスで遊ばせて、真っ黒いスーツに身を包んだ男は俺達のボスでダチの中尊寺紅葉(チュウソンジクレハ)
名前だけ見れば愛らしい女の子を想像するが、こいつはそんな可愛さなんてなに一つない男だ。
黒より黒く、闇に包まれ、冷気を纏う。
紅葉を言葉に表せばそんな感じ。
見るものを魅了するほどの美貌の持ち主の癖に、非情で冷たい男だと恐れられている。
まぁ、紅葉の見た目と地位に寄ってくる欲深い女は吐いて捨てるほど居るけどな?
「後は、裏路地のクラブが二軒と、すぐそこのキャバクラが一軒です」
黒いB5サイズの手帳を開きながら答えたのは、大木美智瑠(オオキミチル)。
濃紺のスーツに黒渕眼鏡、黒髪を七三に分けた神経質そうなイケメン。
それがこいつの特長。
俺と一緒に紅葉の補佐をやってる一人だ。
「分かった」
低い声で素っ気なく返して再び歩き出す紅葉。
片方の手をパンツのポケットに突っ込んで、もう片方の手で煙草を吸う姿は嫌みなほど様になる。
「なぁなぁ、次の店は飲もうぜ」
俺は腕時計で時間を確認して紅葉に声をかける。
PM9:00、飲むには良い時間だろ?
面倒臭い見回りも楽しみが無くちゃな。
「...分かった」
返ってきたのは、やっぱり素っ気ない返事。
「やった!」
と騒ぐ俺を、
「羽目を外すのは程ほどにしてくださいよ」
とメガネのフレームを指で押し上げた美智瑠は俺を睨んだ。
「おう、任せとけ」
と胸を張ったのに溜め息をつかれる。
ちなみに、俺は諸星謙吾(モロホシケンゴ)。
茶髪でゆるパーマをかけていて、猫目が可愛いと評判の癒し系男子。
ま、自分で言うのもなんだけど、結構モテたりする。
ギャラリーに物珍しげに見られる中、紅葉は銜え煙草で堂々と歩く。
そんな紅葉を守るように俺達が後方に付き従う。
これが毎夜の恒例行事。
キャーキャーと黄色い悲鳴が飛び交う。
紅葉を一目見たさに、女達はわんさと集まって自分をアピールするんだ。
運が良ければ、一夜の相手に選ばれるからな。
危険な男ほど魅力的に見えんのかねぇ。
俺はこんな冷めた男、ごめんだけどね?
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