第27話

山道を抜けて、平坦な道に入った私はバイクを停めた。


バイザーを上げて、今越えてきたばかりの山を振り向く。



聞こえていた奴等のバイクのエンジンはもう届かない。


山に這うように作られた道に幾つかのライトが見えるけど、ここまで来るには相当時間がかかるでしょ。



随分と引き離したから、もう追い付かれる事はないはず。



ま、だからと言って待っててなんてやらないけどね?




そろそろ奴等も諦めるでしょ?







「よく頑張ったね。もう少ししたら休ませるからね」


正面に向き直って、相棒のボディに触れた。



バイザーを下ろして、再びハンドルを握り締める。



ここからは平坦な道のりだ。


後二時間頑張って走りましょ。



地面を片足で蹴りあげて、アクセルを回す。



ブオンブオンと二回吹かしてブレーキを離した。



進みだした車体は、誰も居ない直線を進む。



広くなった道の真ん中を思いのままに駆け抜けた。









晴れた月夜は、道を明るく照らし出す。


夜風と一体になり、まだ見ぬ未来へと向かう。



きっと、楽しいことばかりじゃない。


すべてを一から、一人でやらなきゃならない。



独りの寂しさに、私は耐えられるだろうか?



ううん...寂しさに負けてなんか居らんないね。


再びママの側に居られるように頑張らなきゃ。



決意を更に固めた私の視界に入ってきたのは、眩しいほどの街の光。


街を見下ろせる小高い場所を選んで、ガードレールに横付けするようにバイクを停めた。



ここまで来れば、流石に大丈夫でしょ?


追いかけてくる音も光もないのを確認して、ヘルメットを脱いでハンドルに引っ掻けた。 



裸眼で見下ろす街はとてもきらびやかで。



大きな街はとても息づいている街だとすぐ分かる。



私の住んでいた町なんて、比べ物にもならない。 


音が聞こえる訳でもないのに、そこが賑やかなのが見てとれた。




だけど、月の光さえもはね除けてしまうほどに光る街の灯りは、とても無機質でどこか寂しく思えた。



あんなにも明るいのにあの場所には沢山の淋しさが詰まっているみたいだ。



どこまでも広がる街並み。


明るく輝かしい光を放っているのに、あの場所がとても怖いと感じだ。




これから、あの場所に行かなきゃならないのに。


怖いなんてどうかしてるなぁ。



だけど、踏み入れたが最後、足元から飲み込まれてしまいそうで...。



この時の私は自然と感じ取っていたのかもしれない。


この街が、目には見えない黒に覆い尽くされ支配されていたことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る