第9話

愛車のNINJA250で病院まで飛ばす。


深紅のフルカウルの車体は、通行中の人の眼を引く。



16歳から乗ってるこのバイクは私の相棒だ。


バイクと同じ色に染め上げたヘルメットには、白いバラが二輪咲いてる。


手足のように自由自在に動いてくれるこいつが大好きだ。



風を切り、エンジンを唸らせて真っ直ぐな国道を走るのが凄く気持ちいい。



今までにこいつとしたツーリングは数えきれない。



辛い時やママの病気の事で落ち込んだ時、いつも支えてくれたのはこいつだった。



私が心から信じるべき存在が愛車のNINJA250。



ママの病院にも、何時だって私を運んでくれた。



こいつは人間と違って、キチンとメンテナンスさえしてやれば裏切ったりしない。



心も体も託せる...そんな存在。




私にだって友達は居ない訳じゃない。


高校や中学で親しくなった友達は沢山居る。



だけど、全てを吐き出せる存在が居たのかと言われれば居なかった。



自分をさらけ出し、全てを預ける事の出来る存在がもし居たとしたら、今は変わっていたのかもしれないね。







赤信号で止まった交差点。



上半身を起こして、通行する人達をぼんやりと見つめる。



この中に心から幸せだと言える人は何人居るのだろうか?


世界と言う文字盤の中に閉じ込められた駒。



人間なんてそんなもの。


その中で必死に今を生きてる。


駒の1つが欠けたとしても、世界は動いていく。



朝が来て、夜が来て、一日が終わり。


同じ事の繰り返し。



私が今ここで消えたとしても、何一つ変わることは無いだろう。





歩道側の青信号が点滅して、赤へと変わる。



立ち止まった人々を見て体を倒した。



正面の信号が青くなったのを確かめて、ゆっくりとアクセルを空けた。



クラッチを慣れた足裁きで動かしながら、スピードを上げていく。



このまま、誰も知らない場所へと向かおうか?なんて馬鹿げた妄想をしながら、目的の場所を目指した。




だけど、その妄想は本当になるんだ。



この時の私はまだそれを知らずに居た。

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