第6話
「今まで育てた恩を返すと思って、貝塚社長と結婚しなさいよ」
そう言った人は、正座する私の目の前で仁王立ちして睨み付けてる。
この人の言う貝塚社長とは、この小さな漁師町の地主のおっさんで、名前を貝塚滋(カイヅカシゲル)。
45歳、ハゲ、デブ、汗かき、の四拍子の揃ったエロじじい。
ちなみに独身。
そんなおっさんと結婚なんてさせられちゃ堪んない。
「.....」
私は無言で目の前に仁王立ちする伯母さんを見上げた。
「なんだい、その挑戦的な目付きは?こっちは病気の稜(リョウ)とあんたの面倒を5年間も見てきたんだ。恩ぐらい返してもらっても良いと思うがね」
なに言ってんの?こいつ。
パパの生命保険のお陰で、あんたの所の製紙会社が助かったんでしょうよ。
それにママの入院費も私の生活費もパパの残してくれたお金で賄えてるはずだ。
この人に世話になった覚えなんてない。
「恩を返す?」
声が思ったより低くなった。
「ああ、そうさ。誰のおかげでここに住めてるんだ?」
この伯母さん、ほんと可笑しいね?
そりゃ、伯母さん家の離れに住んでるけど、ここは元々お祖母ちゃんの家じゃないか。
第一、住むとは名ばかりで私を家政婦みたいに扱ってる癖に。
入院してるママの事があるから、今まで逆らわずに来たけど...もう限界だ。
この人が例えママの血の繋がったお姉さんでも我慢できない。
「伯母さんに何かを還さなきゃいけないほど、お世話になった覚えはありません」
私は立ち上がって、自分より小さい伯母さんを見下ろした。
「なっ、なんて子だ。散々世話になって口答えするなんて。ほんとに可愛いげないね」
「今まではママが心配するといけないから、伯母さんの言う通りにしてきたけど。貝塚のおっさんなんかに身売りさせられちゃ堪らない」
「あの人にあんたが嫁げばうちの会社は安泰なのよ。つべこべ言わずに嫁にいけば良いんだ。それにうちの会社はあんたのお祖父さんが大切にしてきた会社なんだよ。協力するのは当たり前だろ」
興奮して叫んでるけど、無茶苦茶な言い分だよね?
この人の婿養子に入った旦那の手腕が無くて会社が発展しないんでしょ?
それの尻拭いを私に押し付けんな!
「パパの保険金で会社は助けましたよね?」
見かねたママが貯蓄していた保険金を差し出したのは一年前だ。
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