第33話

「私、ここに座るの夢だったんです」


女は瞳を潤ませて俺を見る。


何かを期待したその瞳に釘を指すために、俺は口を開く。



「一夜の遊びでいいなら抱いてやる。遊びだと割り切れねぇ女はいらねぇ」と。


「それでも良いです」


戸惑うことなくそう返した女は、ここのルールを分かってるらしい。



このクラブのこの席に座ると言うことは、暗黙の了解で一夜限りの遊びだと割り切る付き合いをするってこと。


それでも、選ばれたい女はわんさと居る。



あわよくば俺に気に入られて、その後も呼ばれたいと願う女は多いが、それを口にすることはない。


口にした時点で、女は排除される。



ここで選んだ女に二度目チャンスが巡ってはこない事は、誰もが知ってる。


女を遊び道具にしてる俺をくだらない男だと思う連中もいるだろう。



だけど、溜まった欲を吐き出すだけの相手に俺は情なんて持たない。




「処女は抱かねぇ」


「処女じゃないです」


「ならいい」


「はい」


遊び慣れてそうな女を選んでるつもりだからな。



「一度でいいので抱いてください」


女が了承した事で、今夜の相手がこの女に決まる。


酒を何杯か飲み終えた後、俺は女を連れてクラブの奥の部屋へと向かう為に立ち上がる。



俺に腰を抱かれた女はしなだれかかるようにして歩く。


そんな女を羨ましげに見つめる多くの女達。











ベッドだけがある空間に女と2人で入る。


抱いてた腰を解いて、俺はベッドに座った。



「服を脱いで奉仕しろ」


冷たく言い放った俺に、女は嬉しそうに微笑んで頷いた。



迷いもなく脱ぎ捨てられていく服。


俺は感情のない瞳でそれを見続ける。


目の前で行われるストリップショーに、心も体も反応はしない。



いつもなら何かしらの反応をする分身も、今日はなりをひそめていて。


目の前の女を見ているはずなのに、俺の脳裏には響の姿が浮かんでは消えていく。



あ~くそっ、なんだこれ。


女は俺の心情なんて知るよりもなく、自分の服を脱ぎ捨てあとベッドに座っている俺のズボンに手をかけた。



うっとりと心を奪われた様な表情で、俺を見つめる女は迷いなくチャックを下げる。



くだらねぇ、冷めたままの気持ちで女を見下ろし続けた。

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