第30話

ー晴成sideー




「くそっ!」


足元に転がっていた空き缶を忌々しげに蹴飛ばした。


暗がりに響き渡る甲高い音。


俺の苛立ちがそこに、現れていた。



響を乗せた車が消えていった先を睨み付ける。



夜叉の事を片付けて、後処理もようやく終わり響に会おうとやって来たのに、あいつは迎えに来た男の車に乗り込んで居なくなった。



どうしてこんなにも苛つくんだ。



響の連絡先も通ってる学校も分からなくて、ここに訪ねてきたら会えるとやって来た。


ストーカーかよ、と自分に突っ込んだりしつつ待ってたらこれだ。


声すら掛けられずに他の男に連れ去られる響を見送るだけなんて、らしくねぇ。




「・・・チッ」


マジでうぜぇ。


握り締めた拳をデニムのポケットに乱暴に突っ込んで、来た道を足早に戻る。



苛立つ俺を雲の切れ間から現れた満月が照らし出す。



うぜぇ・・・鈍く光それを睨み付けた。


あぁ、何もかもうぜぇ。





不貞腐れたように歩く俺の横に、ゆっくりと近付いてきた車が横付けされる。


「不機嫌そうに歩いてないで乗ったらどうですか?」


助手席の窓を開けて声をかけてきたのは秋道。


無言で後部座席のドアをかけて車に乗り込む。



「・・・・・」


「機嫌よく出ていったのにどうしたのですか?」


後部座席に深く座った俺を助手席から振り返って見据えた秋道は、不思議そうな顔をしてる。



「うっせぇ、何にもねぇよ」


「そうですか。何も無いようには見えませんがね」


そう言いながらも、秋道は話を止めて前に向き直る。


しつこく聞かれても、迷惑なだけだし、調度いい。



「戻りますか?」


溜まり場には戻りたくなくて、


「いや、クラブへ向かえ」


と返す。



この苛々もモヤモヤした気持ちも吹き飛ばしたい気分なんだ。


クラブなら、適当な女も見繕えるだろう。



心の中に溜まったフラストレーションを解消するのに、手っ取り早い方法を選択する。


溜まったら吐き出せばいい、単純なことだ。



「了解しました。クラブへ」


秋道は俺に返事した後、運転手へ行き先を指示した。



静かになった車内。


俺は腕組みをして目を瞑る。



派手じゃない車で響を迎えに来た男は、歳上に見えた。


普通のなりをしていたが、俺を睨み付ける視線は常人のそれじゃなかった。



あいつはいったい響のなんだ?


自分に近しい目をした男が自棄に気になっていた。

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